偽りの器18
『おそらく器の方を偽装したのだろう。そのうえで増えた分を取り込んだ、といったところかな』
(器を偽装、ですか?)
『ああ。先程の君の例え話をそのまま使うと、器は一定で、その範囲内であれば水は増減する。というのが前提だ』
(はい)
先程ヒヅキが声の主に説明した事を纏めるとそういう事になる。なので、ヒヅキはその通りだと頷く。
『これはつまり、器の範囲内であれば水の量は変化するという事になる』
(そうですね)
器、つまりは総量の上限が上がれば、水、つまりは力の量は上限の範囲内で動くので、上限の上昇と共に水の増減の範囲も拡大するという事になる。
そこまで理解したところで、ヒヅキはなるほどと頷く。方法は解らないが、理屈は理解出来た。
『ここで話をさきほどの部分に戻す。その今代の神とやらがありえない量の力を有しているという理由は、その器の大きさを偽装する事によって水の量を本来の上限以上の量に増やし、その増えた分を全て自身に取り込んだ故であろう。そう僕は推測するかな』
(……確かにそれで説明はつくかもしれませんが、水の量はそう簡単に増やせるものなのですか?)
理屈は解った。器の大きさを偽装するのも気にはなるが今はいいだろう。それよりも、水の量を増やすという方が問題であった。女性の話では、水の量を増やすには力を使って生み出されたモノを力に還元する必要があるという話だった。その方法では、仮に全てを力に戻したとしても元の上限を超える事はない。なので、その疑問をヒヅキは声の主に問い掛けてみた。
『普通は無理だね。でも、例外と言うか世界の仕組みでね、器の変化に伴い水の量が変わるようになっているんだ。今回の場合で言えば、器が大きくなった分、水の量もそれだけ追加されるたという事さ。まぁ、本来は器の縮小に伴って水の量を減少させる為の仕組みなんだけれどもね。だけど、器の変化によって水の量が変化するという定義で組み込まれている以上、逆でも機能するという事だね。普通は起きない事だから今まで問題にはならなかったけれど、仕組みの裏をついた面白いやり方だよねー』
愉快そうにそう言う声の主。ヒヅキとしては迷惑極まりないのだが、文句を言ったところで意味が無いので、それよりも声の主から少しでも有益な情報を引き出すことを優先させる。どうやらこの声の主は女性以上の知識を持ち合わせているらしい。
(それへの対処法は何かないのですか?)
『ん? それはほら、偽りの器を本来の器に戻せばいいんじゃないかな?』
(それはどうすれば?)
『第1は、それを成した者を斃す。つまりは今代の神を斃せばいい』
(それは)
『うんうん。無理なのは理解しているよ。なので第2の方法だ。それは世界の何処かに在る、器へと続く場所から器の許を目指すといい。そのうえで偽りの器を破壊してしまえば何とかなるだろう。あ、本来の器であれば破壊は不可能だから心配は要らないよ』
(器へと至る道ですか。場所は分からないのですか?)
『あれは場所が変わるから、現在何処に在るのかまでは分からないね。ただまぁ、その道とその周辺はこの世界と連動した別世界になっているはずだから、近くに行けば分かると思うよ』
(連動した別世界、ですか?)
『そうそう。例えば、昼は何があろうと明るかったり、夜は何があろうと暗かったりとかね。他にも器は力の塊のようなものだからね、その近くは力が満ちているはずだよ。まぁ、力がどんなモノかは分からないだろうから、性質がかなり似ている魔力が満ちていると勘違いするかもしれないけれども……いや、あれを感知するのは難しいか』
(……………………)
声の主の説明に、ヒヅキはつい最近そんな場所に覚えがあるなーと、少し遠い目になる。なんとも都合がいいので、気にしなければいいだけなのだが。
ヒヅキがそうして少し心の整理をしていると。
『ああ、でも注意が必要だよ』
(注意ですか?)
その間も色々説明していたらしい声の主が、思い出したようにそう付け加えた。




