偽りの器14
(流石に休憩中に眠るのは難しいし……)
現在は肉体と魂の不具合から不調な英雄達に合わせて休憩時間を長めに取ってはいるが、それでも眠れるほど長くはない。仮眠程度なら出来なくはないだろうが、それでは一時しのぎにしかならないだろう。
(以前までであれば、それでも問題はなかったのだがな)
英雄達の魂を取り出す前であれば、ヒヅキは仮眠程度の時間を眠るだけでも十分であったのだが、現在はその頃よりも眠気が強いので、おそらくそれでは足りないだろう。
せめて今の倍の休憩時間は欲しいところかと、ヒヅキは漠然とながらも推測する。眠気が強くなったと言っても、一般的に判断すればそれでもまだまだ弱い方であった。
(寝ている間は誰かに運んでもらうというのは流石にな。かといって、寝る時間を確保するのは……女性に話してみるか? それしかないか)
睡眠時間の確保。現在の眠気を考えれば、それはそれほど長くは必要ないだろう。それでも今の休憩時間では足りない。ではどうするかと考えるも、方法はひとつしかない。先導している女性にその事を話して、睡眠時間を確保してもらうほかないだろう。集団を離れるというのは、今のところは利点が少ない。
(まぁ、おそらく問題はないとは思うが)
現在不調な英雄達に配慮した移動速度と休憩時間で行動しているところを見るだけでも、女性が同行者に配慮しているのが解る。それはヒヅキと二人で旅をしていた時にも感じられたので、ヒヅキの睡眠時間の確保がてらに長時間の休憩を1度挿むぐらいはやってくれるだろう。
そうヒヅキは判断すると、今はその考えを横に措く。それよりも魔法の練習の方が大事だ。検証が少しは上手く出来たので、早くそれに慣れる事も大事だろう。ただでさえ普通の魔法にはまだ慣れたとは言えないのだから。
頭を振って眠気を振り払ったヒヅキは、小さな穴を開けた木を見据えながら次の魔法の用意をする。
(さて、それじゃあ次はっと)
意識を集中させると、ヒヅキは魔法を構築していく。程なくして、虚空から突然石が現れる。直径2センチメートルほどの丸い小石。
地面から土が少し浮き上がると、その小石を包み込むようにして覆ってしまう。更には周囲の草や蔦も伸びていき、その土の塊にぐるぐると巻きついていく。
最後に木や地面に生していた苔も飛んできて、植物でぐるぐる巻きになった塊に張り付く。最終的に、直径6,7センチメートルほどの球体にまで成長した。
本来はただの石礫のはずなのだが、ヒヅキは途中で色々と魔法を試したくなってしまい、結果として苔の生えた球体を生み出したのだった。
(まぁ、問題ないか)
魔法が安定しているのを確認したところで、ヒヅキはそれをそのまま穴の開いた木へと放つ。
ぼこっという低く小さい音が鳴ると、放った苔球は木にへばりつくようにして潰れてしまった。落ちた土が根元の草の上に落ちて草を一部隠してしまう。
威力のほどは大した事はない。質量が在るのでおそらく水球よりはあるとは思うが、それでも誰かに放ったところで、多少押された感があるぐらいだろう。実用性に欠ける。
今度は同じ魔法を砲身を介して放ってみる事にする。どれぐらい強くなるだろうかと期待しながら、ヒヅキは準備を行っていく。
そうして苔球と砲身の準備が整ったところで、角度を調整した砲身へと苔球を潜らせた。
砲身の中を通った瞬間、苔球は一瞬で木へと射出される。途中で土が少し落ちたが、問題なく勢いのついた苔球は木に衝突した。
ドコっという先程よりも大きく重い音を響かせた苔球であるが、結果は変わらず木にへばりつくように潰れただけ。
(うーん……やっぱり土が余計か?)
土が潰れる事で衝突を吸収したのか、変わらない結果にヒヅキは思案する。それと共に、もしかしたら土がへばりついて見えないだけで穴ぐらいは開いているかもしれないと思い、水球を出して土を洗い流してみる。
「ぬ?」
しかし、そう簡単にはいかないようで、水球が中っても土は少ししか落ちない。その後も何度かぶつけてみるが、一部が水を吸って余計にへばりついた気がした。
それを見てヒヅキはしょうがないと息を吐き出すと、面倒になって洗い流すのは諦める。それよりも魔法の練習の方が大事だと考え直した。




