偽りの器13
「うーん?」
少し森の中に入ったところに周囲よりも大きな木が生えているのを見つけたのはいいが、しかし射線を遮るように間に木が1本生えていた。少し横にずれたぐらいでは半分程射線に被ってしまう。
大きく場所を移動すればいいのだが、そこでヒヅキは威力を確かめるにはちょうどいいかと思い直し、その邪魔な木ごと魔法で打ち抜いてみる事にする。
(前回は水球を使用したし、今回は別の魔法を使用してみるか)
水球を現出させようとしたところで、ヒヅキはそう思い直す。だが直ぐに、前回の結果が本当かどうか確かめるところから始めた方がいいだろうかという考えも浮かんだ。
僅かな間悩んだ後、ヒヅキは大気を操り小さな風の球を創り上げる。
(これで普通の時と砲身を介した時で試してみれば十分か)
そう結論を出し、とりあえず創り出した小さな風の球を木へと向けて放ってみた。
視認性の低い風の魔法なので捉えているのが少し面倒ではあるが、威力が他の魔法と比べてそこまで高くないので、砲身を介した結果が楽しみな魔法であった。それに威力が低いので、周囲の安全性にも配慮出来る。
「………………ん?」
それから少し待ってみたが、何の変化もない。ヒヅキはちゃんと魔法を放ったよな? と疑問を抱いたが、そこは間違いないだろう。おそらく威力が低すぎて木に中ったのに気がつかなかったといったところか。周囲に草でも生えていたら違ったのかもしれないが、草は背の低いのが木の根元に数本生えているだけ。木の葉も狙った場所からは距離がある。
視認性の低さが仇となった。それと威力を最小限まで抑えたので、魔力を知覚するのが難しかったというのもある。
とりあえず魔法を放ったのは間違いない。そのはずだと記憶を探りながら自分に言い聞かせ、今度は砲身も一緒に現出させた。
(ちゃんと砲身の中に入れなければな)
砲身である光の環の角度を木に向けて調節した後、先程と同様の威力の風球を現出させたヒヅキは、慎重に風球の位置を確かめながら砲身の中へと導いていく。
(さて、結果は如何に)
砲身の中へと風球を導きながら、ヒヅキは目標の木の幹の方へと視線を移す。
そして、風球が砲身の中を通った瞬間。ヒヅキの視線の先で音もなく木の幹に親指が入りそうな大きさの穴が開いた。
(ふむ。魔法の出力は間違いなく先程と同じ。という事は、砲身による魔法の強化は間違いないようだな。それとも魔法の威力が上がった方か? ……いや、威力は抑えて放ったからな、やはり砲身の方が強化されたとみて間違いないだろう)
ヒヅキは腰をかがめて、今し方穿った穴を覗き込む。しっかりと貫通しているようで、向こう側が確認出来た。しかし、水球の時とは異なり途中で威力を失ったのか、貫通してはいるが向こう側の穴から差し込む光は非常に小さくなっている。
それでも威力が格段に上昇したのは間違いないので、最初の検証は成功と言えるだろう。
「ふぁ」
とそこで、不意に眠気に襲われ、ヒヅキは小さく欠伸を漏らす。
(眠気なんていつぶりだろうか?)
かなり久しぶりに感じた気がする眠気に、ヒヅキは伸びをした後に頭を振る。
(これも英雄達を取り出した影響か?)
軽く手足を動かして体操をしたヒヅキは、眠気を飛ばしつつも、このままでは不味いなと思った。
現在ヒヅキと一緒に旅をしているのは、女性と英雄達だ。まず女性だが、今まで旅をしてきた限り、食事も睡眠も必要としていない。疲労も感じていないのだろうと思われるので、そもそも休憩は女性にとっては無駄な時間なのかもしれない。
次に英雄達だが、仮初の肉体だからかこちらも女性と似たようなもの。ただ、疲労こそ感じていないのだろうが、身体と魂が上手く噛み合っていないのか、一部の英雄は不調を感じているようだ。不具合とでも言えばいいのだろうか。まぁ何にせよ、睡眠は必要ないだろう。
つまり、現在の一行で僅かでも睡眠が必要なのはヒヅキのみ。眠気が以前よりも強くなったのを思えば、睡眠時間も伸びた、というよりも少し戻っているかもしれない。それを考えると、頭が痛くなってきた。




