偽りの器12
十分に休憩を取った後、移動を開始する。
まだ空は暗い。十分に休憩したと言っても、夜が明けるほどではない。森も変わらず暗いままで、足下には注意が必要だ。
そんな中でも、女性は平地でも歩いているかのように危なげなく進む。それに続くヒヅキも足下を気にしながらではあるが、問題なく進んでいた。
森の中を進み、朝を迎える。調子が悪いとはいえ英雄であるだけに、今のところ脱落者は出ていない。女性が歩調を合わせているのも関係しているのだろうが。
本日は雨模様のようで、夜の天気が嘘のように雲が出始めていた。
しばらく歩き、昼前になる。雨が降りそうで降らない不安になる天気の中、女性が休憩を告げた。
ヒヅキは皆が休憩をしている間に魔法の検証をしてみようと思い、周囲を見回して森の中が明るいのを確認する。しかしそれと共に、頭上は曇りだというのに、森の中が昨日と同じぐらいに明るい事に気がつく。
(こんなに明るいものだったか?)
思わず頭上に視線を向けたヒヅキは曇天の薄暗さを確認後、再度周囲へと視線を向ける。
視線を向けた森の中は、相変わらず明るい。そこだけ見れば、今日がまるで晴天であるかのようだ。
頭上の空よりも明るい森の中。それは流石におかしい。とはいえ、この森の夜は空の明るさなど関係なく暗いのだが。
(日中も日中で明るさが違っていたのか)
夜の暗さもあるので、ヒヅキはそれも今更かと思わなくはなかった。今まで日中も頭上とは明るさが違うという事に気がつかなかったのは若干口惜しく思わなくもないが、それはどうでもいい事だろう。
(この森はどうなっているのだろうか)
纏わりつく魔力を思えば、この地は魔力濃度が高いというのもあるが、人為的に何か施されていると考えるべきか。であれば、頭上に広がる空と、この森の中は別物と考えた方がいいのかもしれない。
ではこの森は何かと考えるも、流石にそこまではヒヅキでは分からない。ただ、女性が平然としているので、悪いものではないとは思うが。
周囲に感覚を伸ばすように意識をしてみれば、風の結界の外側は結構な魔力の濃さであった。もっとも、それでも遺跡ほどではない。
何か魔法のような気配も感じるのだが、ヒヅキはそれだけでどんな魔法が施されているのか分かるほど慣れてはいない。知識だって足りていないのだからしょうがないとは思うが。
(ただ、嫌な感じはしていないから、おそらく悪意はないとは思うが……それでも濃い魔力は要らないな。そちらは気持ちが悪くなる)
放っておいても問題はないだろう。そう判断しながらも、ヒヅキは纏わりつく魔力の方には辟易していた。それでも風の結界と砲身で何とかなっているから、今のところ問題はない。
とりあえずそう判断したところで、ヒヅキは前回同様に女性に離れる事を告げてから森の奥へと進んでいく。
今回は直ぐに開けたところが見つからず、少し森の中を彷徨ってしまった。
程なくしてやっと到着したそこは、昔に何かが暴れた後のような、妙に大きく開けた場所であった。しかし、草が全体を覆っているので、時の流れを感じさせる。
(ここでいいか)
草が覆って確認出来ない足下を気にしながら、ヒヅキはその開けた場所の中央付近まで移動する。どうやら足下には朽ちた倒木が幾つか転がっているようで、気をつけなければそれに引っ掛かって躓いてしまいそうだった。
念の為に慎重に移動したので問題ないが、途中で抱えるぐらいの石も転がっていたほど。
一体ここで昔に何があったのか。周囲とは異なる様子にそんな事を思わないでもなかったが、今はそんな事よりも魔法の検証の方が先だろう。移動だけでも結構な時間が掛かってしまっているのだから。
そう思い、ヒヅキは周囲を見回して丁度よさそうな木を探す。そうすると、少し森に入ったところに周囲よりも一回り程大きな木が生えているのを見つけた。




