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小休止9

 メイドに先導されて初めて中に入った台所は、ヒヅキの想像していたよりも狭い場所であった。しかし、一般的な家庭に比べればとても広い。

(考えれば、それもそうか)

 シロッカス邸の住人は、主人であるシロッカスとアイリスの二人以外には住み込みの使用人が数名居るだけ。時期にもよるらしいが、現在は合わせても十にも満たない。

 一応、住み込み以外の予備の使用人も同数程度居るらしいが、客人が多い時などで忙しい時ぐらいしかばないらしく、ヒヅキは未だに見たことがなかった。

 主人であるシロッカスとアイリスの二人が使用人と一緒に食事を摂るということは無いので、作る量もさることながら、一度の食事量もたかが知れているというもの。広すぎる台所などそれこそ無駄でしかないのだろう。

 そう納得しつつ、そこまで考えたヒヅキがふと思い出したのは、この屋敷で賄いきれない程に大勢を呼ぶ場合は、それ用の場所が別に在るようなことをシロッカスが言っていたような記憶であった。

 それにヒヅキは、相変わらず住む世界が違うなと、半ば呆れながらも台所を見回す。

 台所の壁際には(かまど)水瓶みずがめ、作業台などが複数置かれている。

 部屋中央にも長方形の作業台が設置され、その上には鍋やボウルなどの調理器具や切り分けられた野菜などの材料が置かれていた。

 アイリスはその壁際の竈のひとつの前で楽しそうに鍋をかき回している。

 ヒヅキに背を向けているからか、まだヒヅキの到着には気づいていないようだった。

「アイリスお嬢様。ヒヅキさまをお連れ致しました」

 ヒヅキを先導したメイドの声にアイリスは振り返ると、ヒヅキの姿を確認してその端正な顔いっぱいに喜色を浮かべて近づいてくる。

 そして、アイリスはヒヅキの前で立ち止まると、深々と頭を下げる。

「本日はありがとうございました。お疲れの所、急にお呼び立て致しまして、大変申し訳ありません」

 綺麗な所作での畏まった謝辞に、相変わらずその優雅さが似合うものだと感心しながらも、ヒヅキは「いえいえ」 と首を横に振る。

「丁度、手持ち無沙汰でどうしようかと悩んでいたところです。お気になさらないでください」

 ヒヅキはそう返すと、安心させるような優しい微笑みを浮かべた。

 それにアイリスは僅かに頬を染める。

「それで、本日はどのようなご用件で?」

 ヒヅキの問いに、アイリスは「はい」 と小さく頷く。

「是非ともヒヅキさんに私が作った料理を食べて頂きたかったものですから。いかがでしょうか?」

 恥ずかしそうにするアイリスに、ヒヅキはアイリスは料理が出来るのかと、内心で密かに驚く。

「是非ともアイリスさんの手料理を食べてみたいですね。どの様な料理で?」

「薬草を使用した料理です」

「薬草……あのお店は、薬用植物を取り扱っているお店だったんですか?」

「はい、そうです。ヒヅキさんと御父様がお帰りになられたので、お仕事でお疲れでしょうから、栄養をつけて元気になって頂きたいと思い、頼んでいたのです」

「そうだったんですか! それはわざわざありがとうございます」

 ヒヅキは感謝を伝えながら、そういえばあの店では青臭さも感じたなと、内心で思い出していた。

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