偽りの器11
女性の先導の下、森の中を黙々と進んでいく。
朝から昼に、昼から夕方に。それでもまだ森は終わらない。こんなに広い森だったのかと思うも、原因はそればかりではないだろう。
ヒヅキは女性のすぐ後ろを進みながら、ちらと後方へと視線を向ける。そこには、ヒヅキの後に続いて森の中を進む英雄達の姿。
英雄達だけに身体能力が高いので、森の中でも問題なくついてきている。しかし、一部不調の者達はそうもいかない。ヒヅキ達が今まで移動していたぐらいの速度では、その者達はついて来られなかった。原因は解っているが、今のところはどうしようもない。
その為、現在はその者達がついて来られるぐらいの移動速度まで落としている。それに休憩も普段よりも格段に多い。それらの結果として、移動速度はヒヅキと女性の二人旅の時と比べてかなり落ちていた。
(森が広いのも確かではあるが……)
移動速度が落ちたといっても、一般的な旅人と比べればまだ速い方だろう。それでも森の終わりはまだ見えてこない。見通しはいいはずなのだが、どこまで見渡してみても視界に映るのは木ばかり。
纏わりつく魔力はまだ感じるが、それでもそこまで気にするほどではない。少し前までは不快感が減ったとはいえ気にはなっていたのだが。これは慣れたという事だろう。
それからも森の中を歩いていると、すっかり暗くなってしまった。相変わらず頭上には月が輝いているというのに、森の中は暗い。
夜になってしばらく歩いたところで、女性が休憩を告げる。
その場に腰を下ろす英雄達。ヒヅキは森の中を見回して、今回は検証を見送ることにした。くっきりとまでは言わないが、暗闇で視界が取れない訳ではない。しかし、この真っ暗な森の中で光の魔法はやはり自重するべきかという判断だった。
ヒヅキは近くの木の根元に腰を下ろす。魔法の検証は出来ないが、自身の魔力の循環を確かめることはその場で出来る。もしかしたら何かしら変化しているかもしれない。とはいえ、あの神殿からここに来るまでの間にも1度確かめてはいるのだが。
「………………」
しかし、確かめた後に何かしらの変化があったという可能性もある。意識を内側に集中した後、ヒヅキは自身の内側に流れている魔力の流れを調べていく。
(とりあえず、滞りなく流れてはいるようだ。あれから量が増えているといった感じはしないな。意志に反した変な流れをしているという訳でもないし……ふむ。何も変わらない、か? しかしあれは……うーん?)
体内の魔力の流れを調べたヒヅキだが、少し前と比べても特に変化はみられなかった。強いて言えば若干魔力が奇麗になったような気がするが、それは英雄達が減った事で混ざり物が少なくなったからだろう。
では、変わらないのに何故あんなに強力な魔法になっているのかと、ヒヅキは疑問を抱く。
(ん? いや、流石に混じり物が減ったぐらいであそこまで強力にはならないだろう。魔法効率が上がってはいても、あれでは計算が合わないし。うーむ)
どういう理屈で魔法が強力になったのだろうか。それについて考えてみるが、残念ながらこれだという考えは浮かばない。
だが、英雄達が一気に減った影響でもあるのはおそらく間違いではなかろう。それ以外に何かあったというのもないので、仮に他に要因があったとしても思いも及ばないが。
しばらく考えたところで、ヒヅキは息を吐き出し考えるのを止める。
(とりあえず、水筒に魔力水でも補給しておくか)
少し残っていた水筒の中身を飲み干した後、ヒヅキは空間収納から取り出した魔力水を水筒の中に入れていく。
それが終わると、片付けを済ませた後に背嚢から取り出した干し肉を齧った。
今は折角の休みなので、そのまま休むことにする。おそらく次の休憩時には魔法の検証をするだろうから。




