偽りの器9
慎重に光の環の中に水球を通すと、水球は問題なく光の環を通過して射出される。どうやら光球同様に水球も加速はするらしい。ただし、光球の時と比べると水球の射出速度はかなり遅い。
もっとも、かなり遅いと言っても光の輪を通さないで射出した場合と比べると、光の環を通さない時の数倍の速度は出ているのだが。
後は速度上昇だけではなく、威力の上昇も付加されているのかという部分だが、それも直に分かるだろう。
(流石にここからでは見えないか)
ヒヅキは水球が飛んでいった方向に顔を向けるも、木々が邪魔で直ぐに見失ってしまった。
それでも少しすれば何かしら音がするだろうと思い、ヒヅキは耳を澄ます。
静かな森の中、しばらくの間耳に意識を集中させると、離れた場所から木が大きく揺れたような音が届く。届いたのがあまり大きな音ではないのは、水球が小さかったからだろう。
それでもヒヅキまで音が届いたのは、おそらく砲身で水球の威力が上昇したからだと思われた。それと、近くに落ちるように砲身の角度を調節していたおかげだろう。
(威力がどれぐらい増したのかは分からないが、速度の件を思えばそれほど強化されている訳ではないだろう)
そうは思うが、それでも劣化版とはいえ、光球同様の効果が得られると分かったのは大きい。これでヒヅキの攻撃の幅がグッと広がったことだろう。
それからヒヅキは少し考えた後、先程同様に最小の出力で、今度は正面の木へと魔法を放ってみる事にした。やはり1度はしっかりと確認しておいた方がいいだろうという判断。
そうと決まれば、早速準備を始める。弱弱しい光を放つ光の環ひとつと、小指の先ほどの水球をひとつ。
用意した光の環を立て、正面の木と垂直になるようにする。そのうえで、小さな水球を光の環に通した。
木との距離はそれほど離れていないので、今回は水球が光の環を通過した直後には標的にした木に直撃していた。それと同時に木が揺れてがさがさと大きな音が鳴り響く。
「これはまた……」
水球が命中した木を確認してみると、幹の中央に小さな穴が穿たれている。ヒヅキは腰を屈めて穴を覗き込んでみる。そうすると、見事に反対側に貫通していた。いや、それどころか。
(一体何本の木を貫いたというのか)
ヒヅキが水球が中って出来た木の穴から反対側を覗き込んでみると、最低でも三本は貫通していそうだった。恐るべき威力である。
これならスキアとも戦えるだろうかと考えたヒヅキだが、それでもまだ足りないかと思い直す。流石に木を何本か貫通した程度の威力でスキアを倒せるとは思えない。
(まぁ、最大限加減してこれであれば、こぶし大、いやもう少し小さくてもいけそうか?)
それからヒヅキは、どれぐらいの威力ならスキアを斃せるか、その威力の魔法と光の剣であればどちらが魔力の消耗が激しいか。そういった事を頭の中で計算していく。その結果。
(光の剣の方が消費は大きいが、効率はいいか)
対スキアに限って言えば、スキアの数が少なければ通常魔法を砲身で強化した方が効率がいいだろう。しかし相手の数が多いと、光の剣の方が効率がよさそうではあった。もっとも、数がかなり多い場合は魔砲一択ではあるが。
後は砲身を通す事でどれぐらいの強化が可能かを詳細に調べていけば、もう少し具体的に分かってくるだろう。
まずは小指の先ほどの大きさの水球を普通に木にぶつけた場合の威力を調べてみるかと、ヒヅキが小さな水球を現出させたところで。
「そろそろ休憩を終えるそうですよ」
森の中からクロスが姿を現した。女性が寄越した使いだろう。
「分かりました」
それに頷いたヒヅキは、それほど手間でもないし、折角現出させたのだからとそれを木に向けて放ってみた。




