偽りの器5
魔力が纏わりついているのが原因というのが分かったので、その魔力をどうにかすればいいのだろう。風の結界が魔力に対しても有効なのかどうかは知らないが、ここまでで魔法を使用する度にヒヅキは僅かだが不快感が減っていたような気がしていたので、多分有効なのだろう。どの程度までかは知らないが。
それはさておき、濃い魔力を減らす方法としては、魔力を使用するというのが最も有効的だろうとヒヅキは考える。閉じた空間でなら魔力は消費すれば減るだろうからと。しかし問題は、それをどう減らすかだろうか。
(普通に魔法を使用してもいいが、安全性と魔力消費量を両立させなければならないからな……)
うんと首を捻るも、安全かつ大量に魔力を消費するとなると、やはり光球辺りが無難だろう。現在はまだ明るいので、そこまで眩しくないかもしれない。それとも光の剣だろうかとヒヅキは悩む。光の剣であれば、出力だけ上げれば短剣程度の大きさでもかなりの魔力消費が可能であった。
そこまで考えたところで、ふと光の魔法を使用してもいいのだろうか? といった疑問が浮かぶ。光の魔法は珍しいらしいので、どうしたものかと考えたらしい。とはいえ、今更の話でもある。
確かに英雄達にはまだ見せていないが、それでも知っている者は既に知っていそうだ。それに、これから共に神と戦うのであれば、いずれ見せる日も来るだろう。もしかしたら英雄達の中にヒヅキと同じ光の魔法の使い手が居るかもしれない。
(隠している必要性も薄い気がするからな)
珍しい魔法とはいえ、絶対に見せてはいけないという訳ではない。ヒヅキの知る限りだが、禁忌の魔法といった類の魔法ではないようだし。
なので、ヒヅキは別にいいかと結論付ける。何か問題になれば、その時はその時にでも対処すればいい。
(一応別の案として、風の結界を自力で展開し続けるというのも考えたが、こちらは腕輪に供給する魔力量を少しだけ増やして光の魔法と両立すればいいか)
とりあえず今は自身に治癒を使用しているが、僅かに疲労があるだけなのであまり意味はない。魔力消費もほぼ無いだろう。
光の魔法を使用するというのを決めたところで、ヒヅキは事前に食べやすいように細長く切り分けられている干し肉をひとつ取り出して齧る。
その後に魔力水を飲むが、飲んだところで一瞬だけ動きを止めた。周囲の魔力を取り込めるように魔力を消費したいというのに、ただでさえほとんど減っていない魔力が今ので回復してしまった。とはいえ、そこまでくれば開き直るしかないので、ヒヅキは仕方なく引き続き魔力水を飲む。
そうして休憩した後、女性の声に休憩を終えて移動を再開させる。
ヒヅキは移動しながら魔砲の筒を周囲に現出させてみた。やはり光球は眩しそうだし、光の剣は当たると危険だ。それに、光の剣も光球ほどではないが眩しい。
その点、魔砲の筒はヒヅキ以外には見えないので、周囲には迷惑を掛けないだろう。魔砲の筒も出力次第でかなり魔力を消費するので丁度いい。それを周囲が見えないことをいい事に、周辺に何本も現出させていた。おかげでかなり魔力消費が激しい。
そのかいあってか、不快な魔力はかなり減っていった。後は不快な魔力が無くなるのを見極めるだけ。そのままにしていては魔力消費が激しすぎて倒れてしまうだろう。そうなっては滑稽どころの話ではない。
それから少しして、周囲に漂っているらしい魔力による不快な感覚は、大分軽減出来た。しかし、無くなった訳ではない。やはり風の結界では完全には魔力を防げないらしい。
困ったものだとは思うが、それでも不快感は我慢出来ないほどではない。森に入ったばかりの寒気がするぐらいの不快感に比べれば雲泥の差だろう。
そう思いながら森の中を進んだところで、すっかり夜になった。




