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小休止8

 その後、ヒヅキはシンビと軽い挨拶程度の雑談を交わしてから、自室へと戻る。

 部屋に入ると、服の汚れを簡単に払い落としてから、ベッドの縁に腰掛けた。

 そのまま横になって寝ようかと考えていたヒヅキであったが、いざ横になって目を瞑ってみても、一向に眠気はやってこなかった。

 それでも少しぐらいは 睡眠時間を取ろうと足掻いていると、部屋の扉を叩く控え目な音が聞こえてくる。

「はい? 何でしょうか?」

 その音に起き上がると、ベッドの縁に座った状態で応答する。

「ヒヅキさま。少々御時間を頂けませんでしょうか?」

 その扉越しの若い女性の声で、相手がこの屋敷の使用人の一人である事を理解したヒヅキは、ベッドから立ち上がり扉に歩み寄る。

 その間に何の用だろうかと思考を巡らせてみるも、夕食にはまだ少し早い時間帯である為に、他に思い当たる節として、シロッカスが仕事の件で呼んでいるのだろうかと首を捻る。妥当な所では少し遅めの昼食だろうが、御時間頂けませんか、などと声を掛けられるような用件ではないだろうし。

 扉を開いてみるとそこには、明るい緑色の長い髪を頭の両脇で結んだ、まだ幼さの残る面差しの、背丈がヒヅキの胸元より少し下辺りのメイドが一人立っていた。

 ヒヅキの記憶が正しければ、確か彼女はどこぞの上流階級の令嬢で、花嫁修行の一環としてシロッカス家のメイドをしているという話だった。

 その期間が過ぎれば、今度は箔付けの為にも王宮で暫くメイドとして仕えるらしい。実質シロッカス家はその為の準備期間という位置づけになるか。

 年はヒヅキの十ほど下ではあるが、しっかりとした少女であった。

「一体何のご用でしょうか?」

 扉を開けたヒヅキの問い掛けに、少女はしっかりとした口調で言葉を紡ぐ。

「はい。アイリスお嬢様から、もしヒヅキさまに時間がおありでしたら台所まで連れてきて欲しい、と申し付かっております」

「アイリスさんが? 何の用か聞いていますか?」

「いえ。ただ、お時間があるなら連れてきて欲しい、とだけ伺っております」

「そうですか」

 少女の答えに、ヒヅキは僅かな間思考する。

(あの大事そうに抱えていた紙袋が関係しているのは確かなんだけどな……)

 それは分かるのだが、ヒヅキは肝心の紙袋の中身については何も知らされていない為に、いくつか候補は浮かぶものの、はっきりとした答えはいくら考えても出てこない。ヒヅキはあの店が何の店だったのかさえ知らないのだから。

「分かりました。今から台所に伺えばいいんですか?」

「はい。私がご案内させて頂きます。準備は宜しいでしょうか?」

 その少女の問いに、一度自分の身体を見下ろすも、帰宅前と何ら変わらない姿。

 目立った汚れはないが、大丈夫だろうかと内心で首を捻る。

(汗はたいしてかいてないはずだし)

 私的な場だろうし問題はないだろうと思いつつも、不安になってきたヒヅキは、目の前の少女に確認を取る。

 少女は一度ヒヅキの姿を上から下まで確認した後に、スンスンと小さく鼻を鳴らして、「問題無いと存じます」 と返した。

 少女のその返答に安堵したヒヅキは、少女の先導に従い、台所へと向かうのだった。

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