英雄達81
周囲に意識を向けてみると、かなり弱弱しくはあるが、魔法の気配を感じた。
(これは……何の魔法だろうか?)
滑り台を覆うような感じで展開されているその魔法だが、ヒヅキではそれがどんな魔法かまでは解らない。ただ、滑り台を覆うような形で展開されているので、防御魔法なのではないかと推測する。
(魔法道具みたいに調べられないかな?)
意識を周囲に展開している魔法に向けながら、ヒヅキは自身から少量の魔力を放出する。そのままその魔力を周囲に展開している魔法の一部に接触するように伸ばしていく。
魔力を放出して操るというのは魔法道具を調べる際に行っているとはいえ、それは魔力回路に流すような感じなので、大気に向けてというと勝手が違う。
気を少しでも緩めると霧散してしまいそうな感覚に苛まれながらも、ヒヅキは慣れない作業に集中していく。
そうして何とか魔力の糸を周囲に展開している魔法まで伸ばすことに成功すると、その糸を魔法の表面に這わせるようにして探ってみる。魔法道具の時とは異なるので、魔力回路のような道が存在しているのかどうか分からない。
とりあえず、魔法の表面を慎重に調べていくも、やはり勝手が分からないからいまいちはっきりとしない。それでも、何となく防壁のような魔法ではないような気がしてくる。
では何かと思うも、やはり知識と経験が両面で不足している為に答えは出てこない。だが、何となくあやふやな感じの魔法に思えた。
それからもしばらくは魔法を調べてみたものの、これといった感覚は掴めない。
(うーん。感覚が掴めそうで掴めないな。方法は間違っていないとは思うのだが、何か大事な部分が揃っていない気がする……)
探り探りなのでしょうがないのだろうが、結局答えが出なかったので、おそらく方法が間違っているのだろう。そう結論付けたヒヅキは、意識を魔法から戻す。
「ふぅ」
かなり集中していたので、意識を魔法から剥がすと、ヒヅキは疲労を感じさせる息を吐き出す。それと共に周囲に視線を向ける。
(かなり高度が下がっているな。もう地面が見える)
一体どれだけの時間集中していたのか。滑り台で滑る前には遠すぎて見えなかった地面が、今でははっきりと視認出来る。離れた場所に人の集団だと思われる影が見えるので、もうすぐ終点なのだろう。
結局魔法を探るという試みは失敗に終わったものの、それでも魔法の気配を感知するという試みは上手くいった。後はそれを無意識にでも感知出来るようになるだけだが、そちらの方はまだまだ時間が掛かりそうだ。それでも不可能とは思えない。
(魔法について調べる方法は女性にでも訊けば分かるか?)
先程までの結果を頭に思い浮かべたヒヅキは、終点が見えてきた事で、女性に助言を求めれば何とかなるだろうかと考える。女性は博識なので、答えを知っているだろう。というより、これぐらいなら女性は既に身に付けているだろう。
たとえそれが無理でも、英雄と呼ばれた存在が数多居るのだから、その内の一人にでも話を聞ければ、それだけで道が開けそうだった。
ヒヅキは滑り台の終点に到着する。滑りながら、降りる時はどうなるのかと思ったものだが、いざその時になってみると、なんてことはない、終点に近づくにつれて自動で徐々に減速していくではないか。それも終点に到着した時にはほとんど動いていないぐらいに見事に調節されていた。
速度が落ちた事で、最終的には滑り台の終点に腰掛けたような格好で止まったヒヅキは、ゆっくりと立ち上がりお尻を払って砂や埃を落とす。
「無事に到着出来ましたね」
「はい。何とかですが」
近づいてきた女性の問いに頷いたヒヅキは、改めて周囲に目を巡らせる。おそらく上った時とは別の場所なのだろうが、目立つものは無いので、大して変わり映えはしなかった。




