英雄達78
それからまた黙々と歩くと、1日ほどして休憩を挿む。
相変わらず変わり映えのしない光景だが、両側が高い壁なのだからそれもしょうがない。
足元の階段は、どうやってこんな場所にこれだけの距離を、と思うほどに一定の大きさで続いている。やはり昔の方が技術は高かったのかもしれない。
ヒヅキが干し肉と魔力水を少量口にしていると、クロスが近くにやって来る。
「この階段はこのまま真っ直ぐ行くのですか?」
「ええ、この階段は一本道でしたので、そうですよ」
「一本道ですか?」
うーん? とクロスは眉根を寄せると、ヒヅキから階段の先へと視線を向けた。
「何か気になる事が?」
そんなクロスに、ヒヅキは片付けをしながら不思議そうに声を掛ける。
少しの間そうして階段の先を見ていたクロスは、視線をヒヅキの方に戻す。
「この先の道ですが、2手に分かれていると思うのですよ」
「分かれ道、ですか?」
クロスの言葉に、ヒヅキは記憶を辿りながら首を捻る。
一瞬見落としただろうかと考えたヒヅキだが、何処までも同じ光景だったとはいえ警戒はしていたのだ、見落としたとは考えにくい。時折振り返って確認もしていたぐらいなのだから。
だが、クロスの言葉も無視は出来ないだろう。相手は英雄と呼ばれるだけの傑物だ、その探査能力は並ではないと思われた。
ではどういう事かと考えたヒヅキの脳内に、直ぐに可能性が2つ思い浮かんだ。
(仮にクロスの言が正しいとすれば、何かしらの魔法で道が隠蔽されていたか、何かしらの条件を満たしたから出現したのか)
ヒヅキの予想としては、前者が正しいと思っている。確かにヒヅキは周囲を警戒しながら進んでいたが、高度な隠蔽魔法ともなれば、今のヒヅキでは感知は難しいだろう。いくら魔力に敏感であろうとも、魔法の解き方や魔力の感じ方を知らなければ宝の持ち腐れだ。もっとも、この辺りは慣れも重要なのだが。
途上の能力はさておき、そういう訳で行きで一本道だったからといって、帰りも一本道とは限らない。とはいえ、この辺りは女性が最初から把握していただろうから、本当に分かれ道が存在しているのであれば、進んでいけばそちらへと向かうのかもしれない。
案内人が居る楽さを感じながらも、ヒヅキはそれぐらいは感知出来るようにならないとなと内心で苦笑を浮かべる。
「はい。片方はヒヅキ様の仰られる通りに真っ直ぐですが、もう一方は壁の方に逸れていますね」
そう言ってクロスが指で示したのは龍の巣が在った側の壁ではなく、越えた先に何も無い崖側の壁であった。
「こちら側の壁に道が続いているのですか? 反対側ではなく?」
「はい。私が調べた限りではそうですね」
「そう、ですか。こちら側に道が……」
クロスが示す壁の先は、地面まで直通の崖であったはずだ。そのはずだというのに、クロスはその先に道が在ると言う。
だが、やはり道の入り口のようなものは覚えが無いし、外から見た限りはそのようなものはなかった。それに壁の向こう側は龍が飛び交うような場所である。そんな場所に道を造っても大丈夫なのだろうかという心配もあった。
もっとも、それらはヒヅキが心配するような事ではないのだろうが。結局のところ、行けば分かるとしか解らなかった。
(まぁ、これだけ英雄達も居るからな)
一人でも龍の巣を殲滅出来そうな集団である。もしも龍が襲ってきたとしても心配はないだろう。後はその道がどんな道なのか気になるところ。
(ここは元々巡礼者などの信者が使用していた道だろうから、問題ないとは思うのだが……)
ヒヅキは自分に言い聞かせるようにそう思うのだが、何故だか妙な胸騒ぎを感じていた。俗に言う、嫌な予感というやつを。




