英雄達74
「お話は終わりましたか?」
ヒヅキの意識が自分に向いたのを理解した女性は、微笑みを浮かべて問い掛ける。
「え、ええ。一応は」
聞きたかったことは大体は聞けたので、ヒヅキはいつの間に演説が終わったのかと思いながらも、女性の問いに頷く。女性の背後からは英雄達も見詰めていたので、ヒヅキはその光景に少し気後れしてしまった。
「それはよかった。こちらも全員から賛同を得られたので、そろそろここを出ましょうか」
「そうですね」
ヒヅキが女性の提案に頷くと、英雄達と一緒に神殿を出る。
神殿は相変わらず広くはあったが、人数が増えたので行きよりも時間が掛かったぐらいで、帰りに何かが起きるという事もなく外に出られた。
外に出ると夜明け頃だったようで、明るくなり始めた薄い藍色の空が広がっている。
そのまま階段から転移してきた場所に向かっていく。あの場所の転移魔法陣は、一方通行という訳ではないらしい。
ぞろぞろと付いてくる英雄達は結構な数で、小規模ながらも部隊といった感じ。
周囲の地を揺らす振動が一気に増えて何だか騒がしくなった気分ではあるが、大きな音は発せられていないので、気にするほどでもない。そう思ったところで、不意にそういえばと耳を澄ます。しかし、その耳に金属が擦れるような音などは一切届かなかった。
鎧を着用している者も居たのだが。とヒヅキは疑問に思ったのだが、もしかしたら見た目は金属のようでいながら、実は木製とか布製だったという事だろうか。などと益体もない事を考えるも、普通にそういった魔法が組み込まれていると考えるべきなのだろう。
それとも仮初の装備なので、実際には存在していないとか。何にせよ、中には明らかに重装備という者も居るのだが、移動は静かなものだった。
英雄達に関しては、女性が軽く説明してくれた。といっても全員ではなく、使えそうな英雄を数名ほど。といった感じ。
説明をしたといっても、その英雄の名前や生前の行いなどではなく、何が得意かを幾つか程度。武器は何なのか、魔法は使うのかどうか、そういった事だ。
後は戦闘の際にヒヅキはどうすればいいのか、といった話もあったが、基本的には英雄任せでいいらしい。ヒヅキが戦うとしたら、英雄達が負けた後だとか。
そんなのでいいのかとも思ったヒヅキだが、そんな疑問を抱いたヒヅキへと女性は一言告げた。
「ヒヅキは死んだらそれで終わりなのですよ」
硬質な、とでも言えばいいのか、そう言った時の女性の声音は、酷く冷たいものであった。雰囲気も似たようなものだった為に、それが忠告であるという事にヒヅキが気づくまでに少し時間が掛かてしまったほど。
隊列に関しては少し時間が欲しいという事だったので、現在はまだヒヅキが英雄達の前を歩いてはいるが、これもおそらく崖から戻った頃には変わっている事だろう。
「それにしても、壮観ですね」
これからどうするのか、それについても訊いておきたいところだとヒヅキが考えていると、隣からそう声を掛けられる。
ヒヅキがそちらに視線を向けてみると、いつの間にか後ろ向きに歩くクロスが隣まで来ていた。
「そうですね。錚々たる顔ぶれですからね」
後ろに続いているのは、誰も彼もが英雄と呼ばれた傑物揃いだ。その装備もその肩書に相応しく、性能だけではなく見た目にも迫力があるものばかり。
そんな集団がある程度の規律を持って行動しているのだ、それだけで気圧されてもおかしくはないだろう。
ヒヅキも顔には出さないが、背後から感じる圧迫感だけで気疲れしそうなほど。そう考えれば、剣の禍々しさを除けば、そこまでらしくないクロスは付き合いやすい。
やはり見た目が少年だからだろうか? ヒヅキはそうは思うが、クロスが別格の存在であるのは理解出来るので、そればかりではないのかもしれない。




