英雄達73
そこまで説明されれば、ヒヅキも納得がいく。もっとも、まだ判断材料としては少々弱いが、それでもヒヅキの予想である全盛期の姿というものよりは根拠があった。
そして、装備が優れたモノだとすれば、その容姿についても当てはまるのだろう。だとすると、少年時代がこの英雄の最も優れた時の姿だというのか。それとも、やはり成長しても見た目が変わらなかったという事か。
その疑問が視線にでも出ていたのか、クロスは苦笑するような表情を浮かべた後に、小さく首を振る。
「この容姿については、最初に述べました分からない事です」
「……そうなのですか?」
直ぐに自身の視線に気づかれての反応だと理解したヒヅキは、少々言い難そうにそう口にした。
そんなヒヅキの反応に小さく笑みを浮かべると、クロスは自身を示すように軽く両手を広げて説明する。
「私の記憶が正しければ、この姿は生前だと5、6歳ぐらいの頃だったと思いますが、その当時は大して鍛えてもいなかったので、さほど強くもありませんでした。まだまだ成長の始めの頃なので、優れているといえばそうなのかもしれませんが、この肉体が成長するとは思えませんから、やはり優れているという訳ではないでしょう」
「なるほど。という事は、強さも年相応という事ですか?」
「いえ、身体の調子を確かめてみた限りではありますが、身体のキレの方はおそらく最盛期に近いかと。中身と外見が異なっているので、外見に感覚を合わせる必要はありますが」
「ふむ。なるほど」
クロスの最盛期が何時かは知らないが、それでもそれなりに成長していただろう事は容易に予想がつく。大人と子どもでは手足の長さからして異なる。筋量についても異なるが、その辺りはクロスが勝手に最適化するだろう。
「そして、この外観に合わせて装備も縮んでいるようですね」
「ああ、やはりそうなのですね」
剣はさておき、長年愛用しているという鎧が幼少の頃の姿にピッタリの大きさというのに違和感を抱いていたヒヅキは、その言葉になるほどと納得した。装備の方が身体に合わせたのだとしたら納得である。流石は仮初の肉体と装備といったところか。
魔法を組み込んだ装備の中には、大きさが対象に合わせて勝手に変わる自動調節という魔法が組み込まれた装備があるらしいが、それでも無限に対応出来る訳ではない。あくまでも補助なのであって、変化の幅は人が店で調節出来る程度らしい。
「はい。鎧もですが、この剣は元々身の丈ほどの長剣でしたので、ここまで短くなかったのです」
そう言ってクロスは軽く剣の柄を叩く。剣の全長は目測で50センチメートルほどだろうか、長剣と呼ぶには短すぎる。子どもが扱うと考えれば、それなりに長いとは思うが。
もっとも、短くとも禍々しい剣なのには変わりないので、脅威ではあるのだろうが。
「その姿になった理由は全く思い当たらないのですか?」
「……そうですね……うーん、やはり思い当たらないですね。あの頃は平凡な子といった感じでしたから」
「ふむ」
本人に思い当たる節が無いのであれば、ヒヅキでは推測ぐらいしか出来はしない。それも、これだというものが思い浮かばないので、参考にもならないが。
「まぁ、多少調節が必要ではありますが、戦力にはなりますよ」
「それであれば、こちらとしては問題ありませんね」
見た目が子どもだろうとも、戦えるというのであれば気にする必要はない。
何故そんな姿なのかという疑問に明確な答えは得られなかったが、それでも十分な情報は得られただろうと思う。そうなると、他の英雄達も同じ理屈という可能性があった。
それに思い至り、ヒヅキは英雄達がどんな装備をしていたのか確認する為に、女性が演説していた方に顔を向ける。
「………………」
そうすると、演説を終えて無言のままヒヅキの方を眺めていた女性と目が合った。




