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小休止7

 顔を真っ赤に染めて自分から離れたアイリスを眺めながら、ヒヅキは、もしかしたら年頃の少女にするような事ではなかったのではないだろうか? という事に今更ながらに思い至ったのだが、既に過ぎた事であった。

 自分の幼い頃が重なったとはいえ、ヒヅキはかつて母親が自分にやってくれたやり方以外で、迷い子のように孤独に泣く相手を慰める方法に心当たりがなかったので――気にせず放置しないのであれば――、結果は変わらなかったであろうが。

 ヒヅキがそんなアイリスにどう声をかければいいかと悩んでいると、アイリスの方から先に口を開いた。

「ヒヅキさんその……この事は御父様には……いえ、誰にも仰らないで下さい!」

 まだ赤い顔で頭を下げるアイリスに、ヒヅキは「分かりました」 と頷いた。

 ヒヅキは元から他言する気など毛頭なかったのだが、それで安心してもらえるならその方がいいだろう、という判断だった。実際、アイリスはヒヅキの返答に安堵した表情になる。

「で、では帰りましょうか!」

 そう言って、遠慮がちに差し出されたアイリスの手をヒヅキが優しく握ると、アイリスははにかむような笑顔を見せたのだった。



 シロッカスの邸宅に帰宅したアイリスとヒヅキは、シロッカス邸の使用人のまとめ役であるシンビに出迎えられる。

 アイリスはシンビと軽く言葉を交わすと、紙袋を手に家の奥へと消えていった。先ほどヒヅキの目の前で交わされていたシンビとアイリスの会話を漏れ聞くに、どうやら台所に向かったようであった。

 ヒヅキもシンビに軽く挨拶を交わしてから部屋へと戻ろうとするも、その前にシンビが声を掛けてくる。

「ヒヅキさま。本日はありがとうございました」

「はい?」

 突然のシンビからの礼に、ヒヅキは困惑気味に首を傾げる。

 そんなヒヅキに、シンビはにこりと優しげな笑みを浮かべながら、足りなかった言葉を補足する。

「先ほど、アイリスお嬢様がとても嬉しそうにされておられましたので、それがヒヅキさまのお陰ではないかと愚察致した次第でございます」

 感謝に頭を下げたシンビは、顔を上げると我が事の様な笑みを浮かべる。それは使用人というよりも、孫を想う老婆の笑みであった。

 シンビの、ヒヅキが何かをしてアイリスを喜ばせたという事を確信している顔に、ヒヅキは困ったように頭を掻く。

 確信している相手に「そんなことはありませんよ」 と言ったところで無駄だろうし、かといってアイリスと約束を交わした手前、事の顛末を正直に話す訳にもいかずに、ヒヅキは困り顔で「どうなんですかね?」 と、曖昧に返す事しか出来なかったのであった。

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