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英雄達72

 ヒヅキの問いに、少年は自身の身体に目を向ける。その後に手を曲げたり伸ばしたりと動かし、その場で足踏みをしてみたりと、身体の調子を確かめる。その姿はまるで、今頃になってやっと自身の状態に気が付いたかのよう。

 そうして一通り身体の動きを確かめた後、少年は造形を確かめるように自身の顔に触れる。そうした後。

「ああ、なるほど」

 と、一人納得したように頷く。

「何か分かったのですか?」

 それにヒヅキが問い掛けると、少年はどう答えたものかと悩むような曖昧な表情を見せる。

「分かった事もありますが、分からない事もあります」

「お聞きしても?」

「勿論。まず分かった事ですが、どうやら生前の中で獲得した最も優れたモノが形を成しているようです」

「優れたモノですか?」

「はい。まずこの鎧ですが、これは私が生前愛用していた鎧で、生涯を通じてこれ以上の鎧はありませんでした」

「ふむ」

「それだけであれば、最も愛用していたモノとなりそうですが、それはこの剣が否定しています」

「その剣ですか……」

 禍々しいとでも言えばいいのか、ヒヅキには近づく事すら躊躇してしまうほどに濃密な魔力を秘めた剣なので、少し引き気味に目を向けてしまう。

 それを見て少年、クロスは申し訳なさの滲む表情を浮かべる。その表情は大人びていて、やはり見た目通りの年齢ではないのだなと思わせた。

「やはり分かりますか、この魔力の奔流が」

「……そうですね。かなり濃い魔力を秘めているのは何となく」

 控えめにそう言うも、正直ヒヅキには吐き気を催すほどに濃い魔力なので、出来ればもう少し距離を置きたかった。クロスが意識を向けた辺りから剣の魔力が大幅に増幅したので、数歩程度の距離では近すぎる。

「流石ですね。実は、これは私が晩年に手に入れた曰く付きの剣でして、数度振った事はありますが、愛用どころかほとんど封印していたような剣なのです」

「曰く付き、ですか? その剣にどんな曰くが?」

 視線をクロスの顔に向け、極力剣へと意識を向けないように努めるヒヅキ。

「神殺しの剣。私がこれを手に入れた時には、この剣は既にそう呼ばれていました」

「神殺しですか……」

 それは何とも物騒な曰くではあるが、今のヒヅキにとってはとても縁起のいい剣のように思えてくる。それでも、その禍々しいまでに濃密な魔力に近寄ることは出来そうもないが。

「はい。しかし、実際にこの剣で神を殺したという訳ではないようで、それぐらい出来るという謳い文句らしいです」

「なるほど」

 それが事実であればなんとも心強いが、実際はどうかは分からない。だが、感じとしてはあながち間違いとも言い切れない禍々しさがある。

「それだけの由来があるのですが、実はこの剣の出所については私でも把握しておりません。この剣は、とある国の貴族が国をひっくり返すための武器として隠し持っていたのですが、それが失敗に終わり、最終的に私のところに転がり込んできただけなので」

「そうなんですね」

「はい。これは持ち主を選ぶらしく、私以外にはこの剣を振れた者はおりません。というよりも、元々厳重に封印されていた剣でして、これに触ることが出来たのが私だけという事ですが」

「……なるほど」

 クロスの言葉に、ヒヅキは納得したとばかりに深く頷く。こんな禍々しい剣に近づけば、常人は気が狂うだろうと理解して。

 そして、そんな剣を平然と腰に二本も佩いている少年ような見た目のこの英雄は、一体どれだけ規格外な存在なのだろうかと、強さに更に興味が湧いた。

「ですので、鎧は愛用品でもこの剣は使い慣れた品ではありません。しかし、この剣が私の生涯を通じて手に入れた剣の中で最高の切れ味の剣であるのは疑いようがないでしょう」

「なので、優れたモノですか?」

「はい」

 そこまで説明されて、最初の言葉に戻ったヒヅキに、クロスはしっかりと頷いて肯定した。

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