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英雄達68

 ヒヅキが夢中になって魔法の改良を行っている間に全ての英雄の受肉が済んだようで、疲労を感じ始めたヒヅキが少し休憩するかと顔を上げた時には、既に全員が女性の術中に嵌っていた。

 全員が憎悪と興奮に瞳を怪しく輝かせて女性の言葉に耳を傾けている光景は、傍から見ているとかなり異様であり、恐怖を覚える。

「……………………」

 その光景を見たヒヅキは、少しの間を置いた後に見なかったことにして視線を逸らす。そうしてヒヅキが女性達とは別方向に顔を向けた事で、やっとそれに気がついた。

「……………………」

「……………………」

 ヒヅキが視線を向けた先に、一人の鎧姿の少年が立っていた。それだけであればまだおかしくはないだろう。場所を加味すれば、その少年が英雄の一人だと理解出来るから。

 英雄達は武装した見た目通りに、若さも全盛期の馴染みある姿という訳か、全員が全員若かったので、少年の姿をしている者が一人ぐらい居てもおかしくはないだろう。もしかしたら見た目だけ少年に見えるだけで、中身はそれなりに年を経ているという可能性もある。見た目と中身が一致していない者もこの世にはたまに居るものだ。

 だが、その少年はヒヅキをジッと見詰めている。ヒヅキを認識しているとなれば受肉を済ませて安定しているのだろうが、女性の言葉に耳を傾けるでもなく、ただただ離れた場所に立ってヒヅキの方を興味深げに見詰めているのだ。

 その瞳は離れていても解るぐらいに爛々と輝いており、その表情だけを見れば見た目相応と言えなくもない。

 ヒヅキはその少年を観察する。小脇に抱えた兜と身に付けている鎧はくすんだ銀色をしていて、ところどころに傷が確認出来る。何処かの戦帰りと言われたら、さぞ活躍したのだろうと思わずにはいられない損耗具合であった。

 腰には左右に剣を佩いている。見た目は一点を除けば、これといって特質すべき点の無い普通の剣。敢えて言うならば、少し剣の長さが短いとは思うが、少年の背丈を考慮すれば何らおかしくはない。

 しかし一点だけ、その剣の柄の先には、小さな玉が埋め込まれるようにして取り付けられているのが見えた。それも両方の剣ともに。

(あれは何だ? 何か魔力を感じるが……)

 ヒヅキはそれについての知識は無いが、それでもその玉の中に濃密な魔力の流れを感じた。直径数センチメートルほどの小さな玉のはずだが、そこからは、ヒヅキが目にした魔族何人分もの魔力を押し込めたかのような量が流れているように思えたのだ。

 魔法道具とも違う、それそのものが魔力を発生させているような何か。それだけでヒヅキが警戒するには十分過ぎるほど。

 そんな玉が埋め込まれた剣がまともなはずもなく、魔法道具の類いもしくはそれ以上の何かであるのは容易に想像がつく。そんな剣を2本も携えた少年。それが普通な訳はなかった。

 ヒヅキは剣へと張り付きそうな視線を、何とかそのまま下げて少年の足元に向けてみる。

 少年は下半身もくすんだ銀色の金属で覆っているが、くるぶし辺りから下だけが黒みを帯びた赤色に染まっていた。奇麗にくるぶしから下のみ染まっているので、はじめからそういう色合いなのだろう。

 ヒヅキは視線を上に戻す。

 鎧に何かしらの文様は確認出来ない。もっとも、何かしらの文様があっても、世界が違うだろうからヒヅキでは分かりようもなかっただろうが。

 見た目は少年。着ている防具は一見普通の防具に見える。佩いている剣は外観だけは普通の剣なので、防具の方も何某かの仕込みがあってもおかしくはない。

 そんな見た目と中身のそぐわない装備の少年が、爛々と瞳を輝かしてヒヅキを見ているのだ、得体が知れない以上、それには警戒しかない。

 ただ、少年の方はヒヅキと目が合っても動く様子は無く、ただただ憧れの存在でも見ているかのように瞳を輝かせているだけ。

 ヒヅキの方はそんな少年に戸惑いながらも警戒するしかないので、集中出来ずに魔法の改良に戻れそうもなかった。

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