英雄達65
そんなヒヅキの様子に、女性はやれやれとでも言いたげに小さく笑みを浮かべる。
自身の事にはあまり気を配っていないのか、ヒヅキは魔力に鋭敏な割には自分に対して鈍感なところがあった。
確かにヒヅキは人間という種の中では上の方でも、他の種族も入れればそれなりでしかない。なので、自身を過少に評価してもおかしくはないのだろう。しかし、それを補って余りあるほどに魔力に対して鋭敏な感覚を持っているので、たとえ光の魔法が使えなかったとしても、普通の魔法だけで世界でもかなり上の方に位置出来るほど。
それでいながら、本来では行使出来ない光の魔法も行使出来るとあらば、後は立ち回り次第だろうと女性は思っている。少なくとも、正面から1対1で戦えば、ヒヅキは英雄相手だろうともそうそう負ける事はないだろう。
後はそれに気がつくかどうかだが、こればかりは何とも言えなかった。ただ、たまにその事を伝えるぐらいはしてもいいだろうと女性は思う。今後神と戦う際の貴重な戦力として数えているのだから。
「信じられないかもしれませんが、それは事実ですよ」
「そうなのですね……実感はないですが」
「その辺りも力に慣れてくれば理解出来るようになりますよ」
「そうでしょうか?」
「ええ。己を知るというのはそういうものです。ヒヅキはもう少し自身について理解した方がいいでしょう」
「そうですね……そうします」
女性の忠告するような少し厳しい声音に、ヒヅキはそれも必要な事かと思い、小さく頷く。ヒヅキは自身の事についてはそれなりに理解していると思ってはいるが、この機に改めて見詰め直してみてもいいかもしれないと思ったから。
そこでヒヅキはふと思い出す。それは自身を見詰め直すというのは、自身が出来る事と出来ない事を改めて考えることだったからかもしれない。
(そういえば、治癒の魔法が使えたのだったか)
治癒の魔法。それは自然治癒の速度を上げるだけで傷を一瞬で治すような便利な魔法ではないが、それでも使えればとても助かる魔法ではある。しかし、ヒヅキの場合はあまり使用する機会が無いので、使えることをすっかり忘れていた。
今回の場合は痛みはあるが、何処か怪我をしたという訳ではない。それでも、もしかしたら効果があるかもしれないと思い、とりあえず自身に使ってみることにした。効果が無くとも、多少魔力を消費した程度で済む。
女性はヒヅキに声を掛けた後、周囲に眼を向ける。周囲には未だに透けている英雄達の姿があるも、それでも少し前よりかは透明度が少し減ったような気がする。少しずつこちらの世界に定着しているという事だろう。
それでもまだ時間が掛かりそうだったので、女性はヒヅキにその間は休憩する事を告げる。装置から出たばかりなので、ヒヅキの身体を気遣ったというのもあるが。
ヒヅキは頷くと、床に腰を下ろす。石で出来ているので硬い床ではあるが、立っているよりかは幾分かマシであった。それでもやはり硬いので、ヒヅキは背嚢から布の塊を取り出して尻の下に敷く。服などのちょっとした修繕用に入れていた物なので量はそれほど多くはない。それでも、無いよりかはマシであった。
そうして僅かばかりに床の硬さを改善させた後、ヒヅキは力を抜く。それで痛みが増したような気がするも、治癒の魔法が効いているのか、痒いぐらいはあった痛みが少し疼く程度まで治っていた。
これであればもう動いても問題なさそうだとは思うも、休める時にはしっかりと休んでおいた方がいいので、魔力水と干し肉を用意してついでに食事にする。
そうしてのんびりと休憩しながら英雄達がこちらの世界に定着するのを待っていると、少しして何名かは済んだようで、ヒヅキ達の方に目を向けているのが確認出来た。
それは女性も確認していたようで、ヒヅキが何かを言う前に女性はその者達の方へと移動を始めていた。




