英雄達64
少しして魔法が普通に行使出来た喜びが落ち着いたヒヅキは、改めてその事を考えてみる。
魔法が上手く行使出来なかった原因が女性の言う通りに英雄達だったとすれば、行使出来るようになってもおかしくはないのだろう。光の膜に入る前には居なかった周囲の英雄らしき者達を眺めながらそう思う。
それと共に、邪魔をしていたのは確かなのだなと、改めて思った。この英雄達が居なければ、ヒヅキは魔法を普通に使えていたという事なのだから。
そして、現在もまだヒヅキの中に宿っている英雄が居る限り、今まで通りの事も可能だと分かったが、それはつまり、現在周囲に居る英雄達は邪魔をしていただけという事を意味している。
それに気がついたヒヅキは、なんとも言えない気持ちになった。この場合、普通は怒るのかもしれないが、最早そんな気持ちも過ぎるほどには呆れているし、何故この英雄達が自分に宿っていたのかと疑問があるので、怒りよりもそちらの方に意識が持っていかれていた。
神の仕業。現在のところ、やはりそれが最も有力ではあるが、しかし完全に正解だとも言えない気がして、ヒヅキは首を捻る。
ヒヅキは昔の事をほとんど覚えていないのだが、それでも元から身体強化ぐらいは使えていたような気がしている。誰に教わったのかは覚えていないが。
それでも水を出すとか火を熾すとかの魔法は使えていなかったと思うので、その頃から魔法は不得手だった可能性はある。光の魔法に関しては昔は使えていなかっただろう。
その辺りをなんとか思い出したヒヅキがその記憶だけを基に考えれば、光の魔法に関しては神が関係していると考えられる。
だが、やはり何故だか納得出来ず、内心で不思議な感覚だなと首を捻った。
「そういえば、この英雄達は現在どのような状態なのですか?」
ほとんどの者が透けて見えるので、ヒヅキの方を全く気にせずに談笑している英雄達を眺めながら、ヒヅキは女性に問う。
「霊体とでも言えばいいのでしょうか、透けているのは大体そんな感じですね。これは時間が解決してくれるでしょう。こちらを認識していないのは見えていないから。これに関しましては、まだこの世界に定着出来ていない、つまりは足場がまだなので不安定なのです。その結果として、現在はこの世界とは別の世界に身を置いているような感じです。これが長引くようであれば消滅しかねないですが、今のところはゆっくりとではありますが、こちらの世界に定着していっている感じです。英雄同士で会話しているのは、世界が同じなので見えているからですね」
「なるほど。では、このままこちらの世界に定着した後はどうするのですか?」
「協力してもらいますよ。今代の神が相手だと説明すれば問題ないでしょう。中にはそれでは微妙なところの英雄も混ざってますが、その辺りはどうにかしますよ」
「そうなのですか?」
「ええ。英雄達の大半は、今代の神やその関係者に弄ばれて命を落としていますからね。身内も被害に遭っているという者も少なくありませんし、恨みを買っているというやつですね」
「……なるほど」
やっていることに変わりがないというのも救いがない。それはつまり、今後もあの神は同じ事を繰り返していく可能性が高いという事なのだから。
「個人としての力量ではどうなのですか?」
「そうですね……仮にヒヅキが光の魔法を使わないで他の魔法だけを使用するとした場合には、あの中では下から数えた方が早いぐらいでしょうか」
「やはりそうなんですね」
「ええ。仮にも英雄ですからね。もっとも、光の魔法を使用する事を前提に考えれば、ヒヅキは上から数えた方が早くなりますが」
「そうなのですか?」
「ええ。その魔法は強力ですからね。もう少し扱いが上達すれば、ヒヅキがこの英雄達の中で1番強いとなるかもしれませんね」
その女性の説明に、ヒヅキは信じられないとばかりに自身の手に目を落とす。
確かに光の魔法は強力な魔法ではあるが、それは中るという事が前提にある以上、ヒヅキとしては自身の基礎となる身体能力は並よりは上かな? 程度だと思っているので、英雄相手に中てるには自滅覚悟で魔砲を放つぐらいしかないと思っているのだから。




