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「さて、と」

 ヒヅキは振り返って最初に絡んできた三人の方に目を向ける。

 二人は気を失って倒れ、一人は未だにぶつぶつと何かを口にしながら怯えていた。

(やり過ぎたかな……?) 

 ヒヅキはその惨憺たる結果に少しは反省するものの、かなり殺気は抑えていたはずなのだけどと、僅かに困惑を滲ませる。

 少なくとも、先日護衛した人足の人たちならば、最悪腰を抜かす程度だろう。それだけこの男たちが弱いのか、それともこれが一般的な住民の強さなのか。それは情報が殆ど無いために、今のヒヅキでは測りかねた。

(だけどまぁ……別にいいか)

 当初の目的通りに殺しはしなかった。なら壊れようとどうなろうとどうでもいいか、とヒヅキが急速に男たちに興味を失っていると。

「あ、あのヒヅキさん」

 恐る恐るといった感じで声が掛けられ、ヒヅキはそちらに顔を向ける。

 そこにはアイリスの今にも泣きそうな怯え顔があった。ただ、その声には安堵の色も混じっていた。

「………………」

 ヒヅキの名を呼んだきり、何かに耐えるように胸元に置いた手を固く握ったまま黙ってしまうアイリス。

 その姿はどこか迷子の子どもの様な不安や恐怖、寂しさがあるようで、ヒヅキはそんなアイリスに幼少期の自分の姿を重ね見る。

 それはまだヒヅキの本当の両親が生きていた頃。

 昔の事過ぎて何が原因だったかまでは忘れてしまったが、ある日ヒヅキは母親にこっぴどく叱られた事があった。その時のヒヅキは、ただひたすらに泣いていた。それは母親の説教が済んでも一向に泣き止まないほどだった。

(あの時、母さんは僕に何をしてくれたんだっけ?)

 どことなくではあるが、その時の自分と重なるアイリスを安心させるために、ヒヅキは母親が自分を泣き止ますためにしてくれた事を、思い出しながら実行する。

 ヒヅキはまず、アイリスを両の手で包み込むように優しく抱きしめる。

 突然の事にアイリスは驚きで肩が一度だけビクリと震えたが、大きな反応はそれだけで、後は身を硬くしながらも委ねる様にヒヅキの腕の中で大人しくなった。

 次に、アイリスの頭をよしよしと優しく撫でつける。

 そうしている内に、徐々にアイリスの緊張で強張っていた身体の力が抜けていく。

 そのまま暫く続けていると、アイリスはヒックヒックと小さくしゃくりを上げて涙を流し出す。

 一度堰が決壊すると、次から次へと感情が溢れてくるのか、アイリスはヒヅキの胸に顔を埋めたまま、長いこと涙する。

 もし紙袋を手にしていなければ、アイリスはヒヅキを強く抱き返していたかもしれない。

 ヒヅキはそんなアイリスの頭を優しく撫でながら、それを静かに受け止める。

 かつての自分も、こうやって母親に甘えたものだと懐かしく想いながら。

 そうやってどれだけの時間が経っただろうか。おそらく数分程度だろうが、ヒヅキは体感的には何時間もそうしていたように感じたようで、それほどまでにアイリスに意識を集中していた事に、僅かにだが驚いたように表情を動かした。

 アイリスは一通り泣いてすっきりしたら急に恥ずかしくなったのか、勢いよく離れようとする。しかし、抱きしめられて頭を撫でられた体勢からいきなりに離れる事は叶わず、ましてや両手で紙袋を持っているので、ヒヅキを押し返す事もままならない。

 ヒヅキはそれを察して戒めを解くと、アイリスは顔を羞恥で真っ赤に染めながら、直ぐさま数歩後ろに下がった。

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