英雄達62
痛みが弱まってきてどれぐらいが経ったか、時間の感覚などとうに失せているヒヅキには窺い知れないが、それでもそれなりには経過している事だろう。
既に痛みも少し強く打った程度にまで弱まっているので、消耗は激しいが座る程度ならばなんとかなる。それでも、相変わらず時折強い痛みが一瞬だけ襲ってくるが。
仮に痛みの強さがそのまま終わりまでの時間を示しているのだとしたら、もう少しで終わるのだろう。心なしか床の光も弱くなっている気がする。少し前まで痛みでそんな事に気を回している余裕などなかったのだが、ヒヅキは何となくそう思った。
のそりと上体を起こしたところで、ヒヅキは改めて周囲に目を向ける。
周囲を円形に取り囲む光の膜は、白の中に時折色が走る。青や赤や黄など様々だ。外の様子は一切確認出来ないが、上を向けば天井は確認出来るので、完全に覆っている訳ではないらしい。
手を伸ばして触れてみると、光の膜に触れる直前に何か硬質な物に阻まれたような感触が伝わてくる。軽く叩いてみると、音こそしないがやはり何か硬質な何かが阻んでくる。
「………………ふむ」
そのせいで外には出られそうにはないが、あの激痛を思えば、こうしておかなければ外に出てしまうだろうなと、冷静になったヒヅキはそう思った。もっとも、そんな配慮ではなく単純に閉じ込める為という可能性もあるが。
そうして光の膜を調べて時を過ごすと、痛みはほとんど無くなった。だが、痒いような小さな痛みは全身に残っている。激しい運動をした直後のようなその痛みに、肉体の方も大分疲弊したのだなとヒヅキは思う。腕を上げてみるも、いつも以上に重い。
そんな疲労感もどれぐらいぶりだろうかと思いながら、ヒヅキは光の膜が消えるのを待つ。
「……………………」
今まで感じていた痛みが引いたので、作業が終わったのだと予測したヒヅキだったが、しかし、どれだけ待っても中々光の膜が消えてくれない。
「ふむ?」
なので、まだ作業は終わっていないのかと思うも、全身を襲う倦怠感以外の痛みは感じない。もしかしたら何かしらの不測の事態が起きたのか、それともヒヅキが痛みを感じていないだけで、実はまだ作業は続いているという可能性もある。
ヒヅキは座りながら腕を組み思案してみるも、答えは得られない。耳を澄ましてみるも、外の音は何も拾えなかった。
女性の説明を聞く限り、取り出した英雄達は受肉するのだと思うのだが、喋ることが出来ないのか、それとも見た目に反して光の膜内は上部も完全に隔絶されているのか。
復活したばかりの英雄達は意識を失っている事も考えられるが、可能性を考えれば、用の無くなったヒヅキは放置されたという事さえ考えられる。
「そんな事を考えるのは時間の無駄だな」
未だに脚に力が入らないヒヅキは、座ったままこのままだったらどうしようかと考える。放置という可能性はそれほど高くはないとは思うが、全く無いとも言い切れないだろう。
英雄達の実力は知らないが、復活した英雄達に女性がやられたとは考えられない。他に神がもう1度やってきたとも思えなかった。流石に相手が神ともなると光の膜の中からでも感じられそうだ。
では、まだ継続中なのか不測の事態かの2択だろうとヒヅキは予想する。何にせよ、ヒヅキから何かすることは出来ないので、今は大人しく疲弊した肉体の回復に努めるべきだろう。
そう考えたところで、ヒヅキは数回ゆっくりと呼吸を繰り返した後に横になった。光の膜内はそこまで広くは無いので満足に足も伸ばせないが、それでも座っているよりは楽なのだろう。
流石にそのまま眠ることまでは出来ないが、呼吸を落ち着けて力を抜く。全身を走る緩い痛みを感じながら、ヒヅキは光の膜が消えるのを静かに待った。




