英雄達61
英雄達というモノが何かをヒヅキは詳しくは知らない。英雄の定義ではなく、ヒヅキの中に居るという英雄個々人についてだ。
何を成してどう生きた者達なのか、そういった事をヒヅキは知らない。そもそも中には時代さえ異にする英雄が居るようなので、どれだけ歴史を漁ったところで出てこない者も居るのだろう。
ただ、女性やウィンディーネの話を聞く限り、実力者であるのは間違いない。如何様な理由があろうと仮にも英雄と呼ばれているのだから、それも当然なのかもしれないが。
それにしてもとヒヅキは考える。生きとし生ける者に終焉が訪れるのは理解出来るが、だとしても、何故英雄達だけがヒヅキの中に封じられているのかと。
ヒヅキが器になった事に関しては横に措くとしても、英雄だけがヒヅキの中に封じられている理由が分からない。死後は誰もがそうなるのだったとしたら、ヒヅキの中にかつて英雄と呼ばれた者達の魂ばかりが宿っているのはあまりにも不自然であろう。
(英雄になると、死後は皆そうなるということか?)
何者か、おそらく神の意思が働いているのだろう事は想像がつくが、何故そうするのかまではヒヅキでは想像がつかない。それでもこうして囚われているのだから、何かしらの契約なり制約が存在しているのかもしれない。
(力の代償……という事か?)
そうであればまるで悪魔のようだと、ヒヅキはいつぞや読んだ記憶のある物語について思い出した。
その物語では、商売敵の謀略によって家が傾き、婚約者を奪われたとある商人の息子が、相手に復讐する為に劇中で悪魔と呼ばれる存在と契約を交わして強大な力を得るという話だった。
そうして得た強大な力で復讐を果たした商人の息子は、しばらく後に力の反動なのか急激に衰え最期を迎えてしまう。その死後、魂は契約により悪魔の物となり、永遠に囚われる事となる。
そんな物語を何処かで読んだ記憶を思い出したヒヅキは、神はその悪魔のような存在なのだろうかと思った。しかし、ヒヅキは神と契約を交わした覚えは全く無い。
(そもそもこの力が本当に神から与えられたモノという確証はないからな)
もしかしたら契約など必要ないのかもしれないし、ヒヅキが覚えていないだけかもしれない。それでも今のところ、ヒヅキの力の要因として最も可能性が高いのが神ではあった。
とはいえ、旅の道中で出会った人形の男の言葉から、神とは別の存在を示唆されてもいるので、絶対に神からだという訳ではないだろう。
もっとも、それが何なのかはよく分からなかったが。つまりは力の出所に関しては不明のまま。それでも英雄達がヒヅキに宿っているのは確かだし、このまま英雄達を取り出したら失われるのだろう力でしかない。
「………………」
ヒヅキはそこまで考えて、そう言えば力を失ってしまうと魔法しかなくなるなと考える。半減の呪いが消えて魔法の効率は上がるが、その代わりに今まで使用していた力は消失してしまう。英雄達を力の根源としていたのであればそれも当然だろうという推測だが、そうなった場合、ヒヅキは益々弱くなってしまう。
これは本格的に足手まといになるなと思ったヒヅキは、この辺りで女性との旅を終えた方がいいのだろうかと考えるのだった。
そうして思考を巡らせて気を紛らわせつつ時を待つと、少しずつだが確実に痛みが和らいできているのを感じる。
(そろそろこれも終わるのか?)
まだ気を抜けないほどに痛くはあるが、それでも最初の頃に比べれば格段に弱まった痛みに、ヒヅキはこの苦行もそろそろ終わりが見えてきたなと、安堵と共に感じた。
しかし、徐々に弱まっているだけでまだ終わりではないので気は抜けない。相変わらず時折強く痛む時があるので、気を抜けばその時に意識を持っていかれるだろう。
終わりが見えてきた事で焦れる思いはあるが、ヒヅキはそれを極力意識しないようにしながらも、意識を保つために思考を続けていく。




