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英雄達58

 その痛みは移動するようで、お腹の辺りが痛くなったかと思えば、少しして胸の辺りに激痛が走る。それは和らぐ事はなく、絶えずヒヅキを苛んでいく。

 時間の感覚などとうに忘れている。それどころか、周囲の状況すらほとんど意識から外れているほど。それでも辛うじて光の膜の中には入っているのは、痛みが強すぎてその場から動く事が出来ないからだろう。

 このまま痛みで死んでしまうのではないか。そう思うだけの痛みだが、時折それが一際強くなる事があった。それは一瞬の出来事ではあるが、意識を失いかけた瞬間は何度もあった。むしろ意識を失った方がどれだけ楽だったかと恨みがましく思うほど。

「くぅ――」

 胸元やお腹の辺りに置いた手を強く握りしめて、歯を強く噛み締める。それで痛みが和らぐはずもないのだが、それ以外に出来る事もない。

 意識が希薄になり、世界が白と黒の2色に染まっていく。自分が今何をしているのか、何故これほどの痛みを受けて耐えているのか。それを疑問に思っては直ぐに霧散していく。

 意識は有るが無いようなもので、もう声すら出なくなった。身体は弛緩しそうになるも、痛みがそれを許さない。

「あ、ぅ……」

 時折ヒヅキの口から零れる声は意味を成さない音で、それでも苦痛を感じさせる響きを伴っている。

 ――この痛みは後どれぐらい続けば終わるのだろうか。

 ヒヅキが薄れゆく意識の中で痛みに耐えていると、不意に頭の片隅に冷静な部分が戻り、そんな考えが浮かぶ。しかし、それに対する答えをヒヅキは持っていない。敢えて答えるのであれば、英雄達がヒヅキの中から全て取り出された時だろう。それか、ヒヅキの命が尽きる時か。

 ――そこまでして一体何の意味があるというのか。

 英雄達を体内から取り出すのは、今後の神との戦いに備えて戦力を確保をする為である。でなければ、神と戦いにすらならないだろう。

 ――それは誰の為に?

 それは自身の為に。そうヒヅキは考えるが、本当にそうだろうか、とも思う。ヒヅキは神を嫌ってはいるが、だからといって無謀な戦いを挑むほどではない。あちらから仕掛けてくるにしても、無駄に抗って生に縋るほど生きたいのかとヒヅキが己に問えば、それもまた微妙なところ。何か未練でもあるのかと思うも、何か未練が在った気がするとしか答えられない。それに。

 ――抗ったところで世界は終わる。

 そう。たとえ神に勝てたとしても、世界の崩壊はもう誰にも止められない。足下の崩壊は既に始まっていて、どうしようもないほどに事態は進行している。であればこそ、戦う意味はあるのだろうか。そう、ヒヅキは考えてしまう。

 ――そもそも神と戦うという選択は、本当に自身の選択か。

 何故それを選んだのかはもう覚えてはいないが、それでも改めて考えると神と戦うという選択には違和感を覚えた。これまで幾度も神には勝てないと痛感させられても、それでも戦うという選択しか選んでいなかった。仮に諦めても誰も責めはしないだろうに。抗ったところで何の意味も無いだろうに。

 ――英雄達を戦線に加える。果たしてそれで神に抗えるのか。

 英雄とは、神に祝福された存在らしい。そして人生を弄ばれた人形でもある。そんな人形が、親であり王でもある神に挑んで勝てるのか。結果は歴史が示している。数多の英雄の話を聞こうとも、ヒヅキは未だに神殺しの英雄というのは聞いたことがなかった。

 神を殺せば次代の神になるというから、人の世界に生還しなかっただけという可能性もあるが。それで言えば、今代の神はもしかしたら神殺しの英雄という可能性もある。

 なんにせよ、今代の神以外に神を殺したという話をヒヅキは聞いたことがない。であれば、存在しないという可能性もあった。

 翻ってヒヅキの中に眠る英雄達はといえば、女性の話を纏めると、神に挑んで勝てなかった敗者達らしい。そんなモノを束ねたところで、どうにかなるとも思えない。精々直ぐに壊れる盾が増えるぐらいだろう。

 ――それではこれに何の意味がある。

 その思考の問い掛けに、ヒヅキは自身の事を思い出す。英雄達を外に出すというのは危険な行為なのかもしれないが、それでも英雄達が居なくなれば魔法が使えるようになるだろう。それはそれでヒヅキにはとても魅力的な報酬に映るほどには。

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