英雄達57
「その際にヒヅキには激痛が走るかもしれませんが、頑張って耐えてください」
「なるほど」
先程女性が言っていた英雄達を取り出す際に頑張ってもらうというのはそういう事なのかと、ヒヅキは頷く。激痛というのがどれぐらいかは分からないが、避けては通れぬ以上、そこまで気にする必要もないだろうとヒヅキはそれを一旦頭の片隅に措いた。
「つまりは、もうひとつの装置を起動した後に、片方の光の膜に入ればいいだけという事ですか?」
「ええ、そうです。それ以外は特に何かする必要もありませんので、光の膜内であれば座っていても構いませんよ。ゆったりと横になるのは難しいでしょうが、それなりに広い空間を仕切っているはずですから」
「分かりました」
何か操作するとかは必要がなく、光の膜内に居ればいいだけというのであれば難しい事はないだろう。ヒヅキはただ痛みに耐えればいいだけらしいので、そちらに集中すればいい。
「それでは、もうひとつの装置を起動させますね」
そう言い終わると、女性の魔力がかなり広い部屋を満たす。濃度はそれほどではないが、総量はかなりのものだ。
そうして女性が魔力で部屋を満たすと、直ぐにブオンという音と共に少し離れた場所に光の膜が現れた。見た目は既に起動しているモノと同じだが、最初に現れた光の膜よりも一回りほど大きい。
「では、今出た方に入ってもらえますか?」
魔力の放出を抑えた女性は、今し方現れた光の膜を指差してそう告げる。
それに頷いたヒヅキは、そちらの方へと歩いていく。そして光の膜の前で足を止めたヒヅキは、光の膜を観察するように凝視した。
見たぐらいで詳細まではヒヅキには分からないが、それでもそれが魔力を可視化したものなのは分かった。それも儚そうな見た目に反して、構成している魔力の密度がかなり濃い。
観察した事でこれは通れるのだろうかと思ったものの、この中に入る必要があるらしいので、通れるのだろう。
若干覚悟して踏み込むも、何の抵抗もなく内部に入れる。だが、拍子抜けする暇がないほどに、内部は濃度の高い魔力で満たされていた。
まるで容器に水を入れたような、そんな風に思うほどに密度の高い魔力の中、足下では目に優しくない輝きを見せる何かしらの文様が描かれている。
それを観察しようかと思ったヒヅキだが、あまりの眩しさに目を瞑って腕で目元を覆う。それで観察出来なくなり、ヒヅキは残念に思う。
光の膜の内部は魔力濃度が高いというのに、少し圧迫感を感じる程度のようだ。
何故だろうかと思うも、ヒヅキでは分からない。足下の文様を調べれば何かしら分かるかもしれないが、それも無理そうだ。試しに魔力を流してみようとするも、弾かれてしまう。
何もやる事が無くなったので、ヒヅキは目元を隠しながら床に座り上を向く。と同時に女性が作業を始めたのか、ヒヅキはもの凄い脱力感に襲われた。
全身の力が一気に抜けるような脱力感に、座っていてよかったとヒヅキは思う。これでは立っているという事は難しそうだ。
本当は今すぐ横にもなりたいのだが、光の膜の内側はそこまで広くないので、出来ても胎児のように丸々ぐらいだろう。
だが、そうなると床の眩しさが増すので、余裕がある内は気になってしょうがない。これからどうなるのかなと思いながらも、激痛が走るという事だったので、ヒヅキはきつくなったら横になるかと、今後の体勢について思案を巡らせた。
しかし、そんな余裕もそこまでで、脱力感に続いて体内から何かが腹を食い破ろうとしているかのような激痛が身体の中心から走る。
「ぐぅっ!? くっ……」
耐える為に噛み締めた口元から苦痛の声が漏れるも、そんな事は気にもならずにヒヅキは直ぐにお腹の辺りを押さえてその場で丸くなる。あまりの痛さに、床の眩しさなど既に頭の中から消えていた。




