英雄達56
「ここを中心に、この辺りに魔力回路が組み込まれていましたから。そして、その魔力回路があの装置へと延びていましたので」
「なるほど。それで」
ヒヅキでは魔力回路を視る事が出来ないのでそれは真似の出来ない手法ではあったが、それでもそうであれば納得出来た。それと同時に、であれば同じ方法を用いてもうひとつの装置も発見出来るのではないか。そう思ったものの、直ぐにそれが通じるのであれば、女性は既にもうひとつの起動部分を見つけていただろうと思い直す。
実際そうであったようで、ヒヅキの考えを察した女性は苦い表情を浮かべる。
「こことそこの装置とは魔力回路が繋がっているのですが、そこの装置からここ以外には魔力回路が延びていないのです」
「そうなのですね……ということは、手探りで探さないといけない訳ですか。せめてこの部屋の中に在ればいいのですがね」
ヒヅキは部屋中を見回すように視線を周囲に巡らす。
かなり広いその部屋を手探りで探るというだけでもかなりの労力を要するだろう。だというのに、もしかしたら部屋の中ではなく外に在るかもしれないとなると、ほぼ不可能だろう。流石に神殿から離れた場所には無いとは思うが、それでも別の部屋に在る程度であればまだマシに思えるほど。
「装置から僅かにではありますが魔力回路が何処かへと延びているので、別の起動装置自体は在ると思いますが……そうですね、おそらくこれはちょっとした悪戯程度でしょうから、流石にそこまで難しくしているとは思えません。なので、この部屋の何処かには在って、尚且つ見つけられない場所ではないはずですよ」
「そうなのですか」
ヒヅキは女性の言葉に頷くも、それでもかなり広い部屋の中を調べないといけないというのは変わりないなと苦笑を浮かべる。
「それで、その装置というのはそこに在るのと同じようなモノと考えていいのでしょうか?」
「魔力を通して起動させる類いのものだと思いますよ。元々がそのような起動装置だった訳ですし」
女性は頷くと、足を装置の上からどかす。それだけで起動装置が在る場所を見失いそうになった。
「ああそれと、この部屋から起動装置を探すのは大変ではありますが、地道にでなければそうでもありませんよ」
「何か方法があるのですか?」
「ええ。場所の特定が目的でないのなら、床全体に魔力を流せばいいのです」
「床に魔力を流す? それは感知魔法みたいな感じでしょうか?」
感知魔法は、術者を中心に周囲へと魔力を拡げるように流すことによって周辺に何が在るのかを把握する魔法である。ただ、感知魔法の場合は床だけではなく空間にも魔力を流すのだが。
「ええ。この起動装置は魔力を流す事で起動しますので、少々多めの魔力でこの部屋を満たせば、仮に床に無くとも起動するでしょう」
本来の感知魔法はそれほど多くの魔力を使用しない。少ない魔力でも十分だというのもあるが、あまり多すぎても感知魔法を使用したのが相手に露見してしまうから。といっても、基本的に術者よりも少し上ぐらいの実力者までしか欺くことは出来ないが。
今回はそれを加減無しにとまでは言わないまでも、本来使用する以上の魔力で使用すればいいという事であった。
確かに探る訳ではないのでそれで問題はないだろうが、かなり広い部屋の何処に在るとも知れない起動装置が起動するぐらい魔力で満たすともなれば、疲弊の度合いは如何ほどのものか。
ヒヅキはその事について思案してみて、自分では魔力が足りない気がするなと考えた。もっとも、ヒヅキがするとはまだ決まっていないのだが、念のために。
「なるほど。しかし、それは私の魔力量では難しいかもしれませんね」
「それは私がしますのでご心配なく。ヒヅキは英雄達を中から取り出す際に頑張ってもらいますから」
「分かりました。では、よろしくお願いします。しかし、英雄を取り出すとは一体どうやってうやるのでしょうか?」
ずっと気になっていたので、ヒヅキは丁度いいと思い問い掛けてみると、それを受けて女性は説明を始める。
「別段難しい事をする訳ではありせんが、もうひとつの装置を起動した後、あの光っているのと同じモノがもうひとつ現れます。その片方にヒヅキが入ると、もう片方に英雄の力が受肉して顕現するというだけです」
「なるほど……?」
その説明を聞いて流れは理解出来たものの、ヒヅキではどういう理屈かまでは全く見当がつかなかった。




