英雄達54
何か探すようにしていた女性が、今度は何かを確かめるように床や壁、天井に視線を向けている中、ヒヅキも神が答えた言葉について理解しようとしていたが、やはり自分とは違う考えというのは中々に理解するのが困難であった。それでも多少だが理解出来たような気がする。
(例えば都市を落とすとして、神であればまずは包囲するだろう。今までの街でもそんな感じだった。しかし、その後は包囲するだけで散発的な攻撃しかしてこない。包囲も結構緩く大きな包囲だったし)
今まで見聞きしてきた事を思い出しながら、ヒヅキは推測していく。とはいえ、不完全な包囲を敷いて遊ぶような思考は、ヒヅキには中々理解出来ないのだが。
(ウィンディーネの話なども参考にすれば、希望を見せてから絶望させる感じらしいが…………散発的な攻撃を撃退しただけで希望ね)
それだけではないのだろうが、そう考えれば希望などどこにも無いだろうとヒヅキには思えてしまった。
(遠くでスキアの群れが囲っている状況とか、よほど強い冒険者が街に複数居るという状況でなければ、希望も起きそうにないが)
そこまで考えたところで、ヒヅキは何かに思い至りそうな感じがする。うむむと深く意識を沈めて思案してみると、やがてひとつの考えに思い至る。
(それを今の俺の状況に当てはめてみると、囲まれた街が自分。囲んだスキアが神。その状況で希望となるのが強い冒険者、つまりはスキアに対抗できる存在、いや力か。これはそのまま当てはめて考えると、神に対抗できそうな力を俺に授けようとしている? 無論、それだけでは神に対抗など出来そうもないが)
神の言う可能性というものが、偽りでも神に対抗出来そうな希望を与える代物であるというのであれば、そういう事だろう。では、神に抵抗出来そうな力とは? と考えたところで、ヒヅキの思考は止まる。
(少しは進展があったかもしれないが、結局は振出しに戻るか)
可能性とは何か、それは神を打倒しうる、ようにみえる力という考えまでいったものの。では、その力とは? となると言葉に詰まってしまう。
だが、神がヒヅキにそう告げた以上、たとえ罠でも何かしらあるのは確実のように思えた。神はある程度育てて遊ぶのが好きなようだし。
(可能性、可能性。俺が持っている可能性…………)
それでも強くなれるというのであれば、現在のどうしようもない状況を打破出来るのではないか。そう思えば、神の思惑に乗るぐらいは大した問題ではないように思えてくる。
それにそうしてでも力をつけなければ、どちらにしろこれから先は生き残れないのだから。
ヒヅキがそうして考えてみるも、これといった答えは思い浮かばない。ヒヅキは持っていて女性は持っていない可能性。抽象的で曖昧な表現なそれでは、これだというのも思い浮かびそうもない。
(可能性、力か。そういえば、ここへはその力となる英雄達を俺の中から取り出す為に来たんだったな。それを取り除けば、魔法が使えるようになるのだろうか)
戦力としての英雄達もだが、それを中から取り除くことによって、ヒヅキも魔法がまともに使えるようになるかもしれない。それを思えば、それもまた強くなるという事への繋がりではあった。しかし、仮にそれで強くなったとしても、やはり差がありすぎるのだが。
なので、それとは別にヒヅキは神の言葉を改めて考えてみる。思いきって可能性を力と変換し、自身に眠る力というモノについて思い出してみると。
(英雄達に行き着くが、それは今からする事を指しているのか? それとも別の事?)
ヒヅキにとっては忌むべき存在である英雄達。しかし、それは確かに力でもあった。だが、改めて英雄達について考えてみても、やはりヒヅキにとっては足を引っ張るだけの存在にしか思えないのであるが。




