英雄達49
「しかし、神というのは結構分かりやすい存在ですよ」
「そうなのですか?」
「ええ。なにせ神とは、最も強い存在であるのですから」
「……なるほど」
女性の言葉に頷いたヒヅキは納得こそすれ、なんとも俗っぽいものだと感じてしまった。そして内心でそう感じると同時に、人というのは神という存在に何かしらの神聖でも期待しているのかもしれないとも考えてしまい、自分は想像以上に凡俗な輩であるのだなと呆れてしまう。
「そして、それを示せた存在こそが神となり得るのです」
「示せた存在ですか?」
「ええ。自称最強では神ではなく、ただ傲慢なだけの存在ですから」
「それはまぁ、確かに」
自分は誰よりも強いと言うだけならば子どもでも出来る。それで神に成れるのであれば、今頃世界は神だらけの世界になっているだろう。
「では、それを示すにはどうしたらいいと思いますか?」
「どう、ですか……そうですね、何かしら実績を積むのがいいのだとは思いますが…………」
誰よりも強い事を証明すればいいのだから、とヒヅキは考える。そうなると、強い相手を倒していけばいいのではないかと考えたものの、市井の中の強い者などそう大したものではないだろう。それであれば冒険者の中でも指折りの実力者と戦うという方がより現実的であるし、人に限らず強い存在というのは存在するもの。
ヒヅキが知っている相手でも、スキアに魔物に龍にと色々と居るものだ。そういったモノを相手にするというのもまたひとつの手ではあろう。四足や二足、体格の大小、そういった要素でも戦い方は変わってくるだろうが。
そうなると、人やそれ以外とも戦って自身の強さを証明しなければならないという事になる。誰よりも強いとはそういう事であろう。二足の相手には強くとも、四足の相手にはそうでもないとなると、最も強いとは言えない訳だし。
あれやこれやと考えて、ヒヅキは難しい顔をする。これをすれば誰もが認める誰にも勝る強さというのは考えつかない。やはり、結局は実績を積んでいくという地味な方法しかないように思えた。
そうしてヒヅキが悩んでいる様子を背中越しに感じた女性は、妙なところで鋭いと思いきや、こんな簡単な問いにこれほど悩むとはと考え、思わずといった感じで小さく笑ってしまう。
「ん?」
そんな女性の声が耳に入ったのか、ヒヅキは思案しながらも首を傾げる。それに気がついた女性は、一瞬視線だけをヒヅキの方に向けた。
「何でもないですよ。それで、何か考えつきましたか? 先程の答えも間違ってはいませんが」
「……いえ、何も思い浮かびません」
「そうですか。答えは結構簡単ですよ」
「それは?」
もっと時間を掛ければ解るのかもしれないが、そこまでして考えるものでもないので、ヒヅキは女性に答えを尋ねる。
「神を倒せばいいのです。先程も言いましたが、神とは最も強い存在。その強い存在を倒したならば、その存在は疑いようもなく最も強い存在だという証明になるのですから」
「なるほど」
「つまり、目の前のあれはそれだけ強いという事なのですが」
「……神とは倒せるものなのですか?」
「倒せますよ。実際あれは前の神を倒して神になった訳ですし」
「そういえばそうでしたね」
「まぁ、あれは神が複数居たから可能だったのかもしれませんが」
「どういう事ですか?」
「神とは強い存在です。それを単独で倒すのは至難の業」
「でしょうね」
「ですので、もしも戦うのであれば、徒党を組んで戦う訳です。別に単独で倒さなければならない訳ではないので」
「はい」
「その結果として神に勝った場合、徒党を組んだ者全員に神の力が分配されて、全員が神に成ります」
「なるほど」
「つまり神の力が分散してしまうので、数が多いほどに一人一人の力が弱くなってしまうのです」
「なるほど。だから複数居たからと」
「そういう事です。もっとも、それでも単独で倒したのは異常でしょうが」
前の神は三柱居たという。つまりはそれだけ個の力は弱まっていたという事なのだろうが、それにしても強大な力を少し分けた程度でどうにかなるとは、ヒヅキにもどうしても思えなかった。




