英雄達48
そんなヒヅキの疑問に、女性は思わずヒヅキの方に顔を向けてしまう。直ぐに顔を戻したのでそれは一瞬の出来事ではあったが、間違いなく隙ではあった。
しかし、相手はそもそもここで戦う気は無いようで、そんな隙も特に気にも留めずに立っているだけ。
「えっと……何かおかしなことを訊きましたか?」
そんな女性の反応に、ヒヅキは困惑して声を掛ける。ヒヅキにとっては内に生まれた小さな疑問に過ぎなかったのだが、思いの外それが女性には驚きだったようだ。
「いえ。ただ……そうですね、その疑問は正しい疑問でしょう」
「と、言いますと?」
女性の返答に、ヒヅキは首を傾げる。正しいと言われても、疑問に正しいも間違いもあるのだろうかと思ったが、それは口にしないでおく。
「神と深淵種の類似性についてです。そこまで辿り着くとは驚きですね」
「そうなんですか?」
ただ疑問に思っただけだというのに、思いの外驚かれてヒヅキは困惑してしまう。
「ええ。今代の神はですね、神の残滓が深淵種を取り込んで形作った存在ですので、深淵種と似通った部分が多いのです。ですので、深淵種に出来る事はあの神にも出来るのですよ」
「神の残滓が深淵種を取り込んだ存在ですか?」
よく意味が分からなかったというのもあるが、そんな存在が神と呼べるのかといった疑問を覚えたヒヅキは、女性に色々と含んだ疑問を投げかける。
それを予測していたのだろう女性は、相手を警戒しながらもヒヅキの疑問に答えていく。
「まずはじめに、神とはどういった存在だと思いますか?」
女性の問いにヒヅキは思案する。
神とはどういった存在か。改めて聞かれると、ヒヅキは自身がろくにそんなことを考えていなかったという事に気がつく。何となく超越的な存在とか敵わない存在とか、そういったよく分からないけど凄い存在という感じで漠然と考えていた。
なので改めてそう問われると、どういった答えが自身の答えなのかと考えてしまう。何が自身の考える神という存在を表すのに適切だろうかと。
女性から神と告げられた相手は特に何をするでもなく黙したまま立っているので、ヒヅキが思案している間は沈黙が部屋に横たわる。
その間に女性と向かい合っている神は、何やら楽しそうに顔が緩んでいる。話題が自身の事なので、そこから何か突破口でも見つけてくれるかもしれない。などと期待しているのだろうと女性は予想する。自分が勝つ事よりも、負ける可能性が高くなるほうが、この神は喜ぶのだ。
それは、神が対する相手の勝率が最初はほぼ存在しないからだろう。知って鍛えて集めて対策して、そういった事を積み重ねていって、ようやく挑戦者にも僅かに勝率が出てくる程度の実力差。
神としては戦いもまた楽しみたいだけなのだから、そこに絶対的な差はむしろ歓迎出来ない。もしかしたら負けて全てを失うかもしれない。その可能性が相手に見出せないのであれば、そもそも神は相手をしないだろう。
破滅願望のある神というのはどうなんだろうかと思うも、それが今代の神である以上、否定は出来ない。それに女性が思い出してみても、神というのは大半がろくでもない存在ばかりであった。
これからヒヅキに話すであろう神という存在についての中に、人から見て性格破綻者という項目でも付け足した方がいいのだろうかと、女性は少し真面目に考えてしまう。
そうこうしている内にヒヅキの中で答えが出たのか、ヒヅキは女性に告げた。
「……神とは、よく解らない存在だと思います」
やや躊躇いがちにそう答えたヒヅキ。それに女性は、その答えが理解出来るといった感じで頷く。
「それも間違いではありませんね。あれは理解しようと思うモノではありませんし、そんなモノは無駄な事ですから」
先程の考えを思い出し、女性はより強くそう思った。神という存在を理解しようとする方が間違っているのだろう。そもそも存在そのものが人とは異なっているのだから。




