英雄達44
とても広い場所ではあるが、空間を広く取っているだけのようで、複雑な造りではない。
見渡して確認出来る範囲では、何かしらの部屋だと思われる場所が3ヵ所。奥には巨大な階段が確認出来るが、それだけだ。
女性は真っすぐに階段を目指しているようで、足取りがぶれる事はない。その足取りから、罠などは仕掛けられていないのだと推測出来る。
ただ、やはり広いというだけでに中々階段まで辿り着けない。まるで小人にでもなったような気分だと内心で思いつつ、ヒヅキは女性に続いて階段を目指す。
それからしばらく歩いて階段に到着するも、階段は1段1段がかなり高い。1段の高さだけでも1メートルは優に超えている事だろう。それが10数段ばかり続いているのだから、ヒヅキぐらいの身長では上るのも大変だ。
まるで登山、いや岩登りといったところか。目線よりは下とはいえ、垂直に伸びている岩は登るのにも一苦労。
そう思い、ため息を吐きそうなほどに陰鬱な気分となっていたヒヅキの目の前で、女性は軽々とその階段を跳びあがっていく。
そのあまりの跳躍力に驚いたヒヅキだったが、肉体を魔法で強化している自分でも出来るかもしれないと思い至り、真似してみることにした。
女性の真似をしてヒヅキが階段へと跳躍してみると、存外と簡単に階段を上ることが出来た。しかし、やはり跳ぶというのは結構力を使うようで、普通に階段を上る時とは比較にならないほどの疲労感を覚える。それでも普通に巨大な階段を登るよりは疲労しないだろう。
そうして二人でピョンピョンと跳ねて階段を上りきると、次の階に到着する。そこも1階と似たような広い空間であった。
「ここを造ったという集団は、巨人の集団だったのですか?」
今まで通ってきた道を思えば、そうではないだろうとは思うのだが、それでもここの神殿の大きさは、今までと比較にならないほどだ。建物や扉だけではなく、内装までひとつひとつがあまりに大きすぎる。
だが、それはヒヅキから見てなので、これが巨人の住まいともなれば、そうとは限らないのだろう。だというのに。
「いいえ。大柄な者が多かったですが、ヒヅキぐらいの体躯の者もまた多かったはずですよ」
「そうなんですか? では、ここは何故これ程までに広いのでしょうか?」
神殿が建っている場所が場所ではあるが、それでも今まではヒヅキ達でも普通に使えるぐらいの大きさの場所が多かった。それに、巨人しか居ないという訳ではないのであれば、ここの広さは不自然であろう。それとも、この神殿は巨人しか利用しなかったのだろうか。
「簡単には辿り着けないようにというのも在りますが、ここを主に使用していた管理者が大きな体躯の者であったというのもあるのかもしれませんね」
はっきりとは分からないといった感じの女性の返答に、ヒヅキは「そうでしたか」 と返す。知らないのであれば、それ以上は訊くだけ無駄だろう。
「まぁ、件の設備はそれほど大きなものではないので安心してください」
それに続いて、女性はそう付け加える。神殿の由来については詳しくないようだが、ヒヅキの中から英雄達を引っ張り出すという装置については知見があるらしい。
「それならばよかったです」
そんな問題が考えられる事などすっかり失念していたヒヅキだが、素知らぬ顔でそう言葉を返す。
それに気づく事なく、女性は会話を終える。その頃には、次の階段前に到着していた。
到着した巨大な階段を、前同様に跳躍して上ると、3階に到着する。
3階も広い空間であったが、今回は奥に階段の存在が確認出来ない。その代り、部屋数がこれまでの階と比べて倍に増えているようだ。
女性はその空間の奥に在る、一際大きな部屋を目指して進んでいく。
周囲に目を向けてみるも、生き物の気配すらない。それに、3階に到着するまでに結構な時間が掛かったので、既に夜であってもおかしくはない。しかし、窓から見える外の明るさは、神殿に入った頃と変わらず明るかった。




