英雄達42
祠からの転移魔法によって転移した先は、色の薄い空が頭上に広がる野外。
腕輪に組み込まれている風の結界によって温度や風などの肌で感じる部分には特に変化はないが、視覚的にはより明るくなった感じ。
それとは別に、やはり野外だからか開放的な気分になり、ヒヅキは周囲の確認を終えると思わず伸びをしてしまった。
んと伸びをした後、ヒヅキは少し先に居る女性に顔を向ける。
「それで、あれが目的の神殿ですか?」
「ええ。そうですよ」
広大で不自然なまでに平らな岩の上、その先にぽつりと建っている岩を掘って削って造ったと思しき建物をヒヅキが指差して尋ねると、女性はそれを肯定する。
遠くからなので詳しくは分からないが、その神殿はヒヅキが今し方上ってきた階段が設けられていた神殿に似ているような気がした。
造ったのが同じ組織だろうからそれも当然なのかもしれないが、よくもまぁあれだけ立派な建物をと思わなくもない。しかし、石材やら木材やらを頂上まで持ってくるよりも、その場に在る材料で造ってしまった方が早いし楽なのだろうとも思った。
女性が神殿に向かって歩き出したので、ヒヅキもその後に続く。足下は平らな岩ではあるが、それだけで何か舗装されている訳ではない。
神殿まではそこそこ距離があるも、ヒヅキ達の足なら直ぐに到着するだろう。
(それにしても、随分と不便な場所に在るものだ)
場所柄なのか、人が通る事によって自然と出来るであろう道が確認出来ない足下の様子から、ここの利用者の数も然程多くはなかったのが窺える。
上を向くと空が大分近い感じはするも、足下が一面岩の床なので、どれぐらいの高さなのかは分からない。
それから少し経って、ヒヅキ達はようやく神殿に到着する。
とても大きな神殿だった。周囲よりも低い場所に建っているというのに、見上げていると首が痛くなりそうなほど高く、横幅もかなりある。
それはカーディニア王国の首都ガーデンに在るガーデナー城よりも大きいだろうと感じるほどで、妙な圧迫感があった。それは大きい建物が発するような威圧感ではなく、中から漏れ出る魔力のようなものを感じ取ったが故の感覚なのだろう。
「これはまた、凄いですね」
それを目の当たりにしたヒヅキは、そんな漠然とした感想しか出てこなかった。それぐらい圧倒されたとも言う。
「ふふ。それはどちらがですかね?」
ヒヅキの感想に、女性は小さく笑いながら問い掛ける。
「どちらもですが、どちらかといえば中からの方に意識が向きますね」
「なるほど。それが今回の目的である装置ですよ」
「これが……なるほど」
女性が言う装置というモノの存在感に、そこでヒヅキは深く感心した。今まで感じた事のない感覚で、拒絶されているようにも、歓迎されているようにも思える。
だが、魔物が発するような禍々しい気配は欠片もしてこないので、きっと気後れするような代物ではないのだろう。
(昔の技術はどれだけ高かったのか)
今まで遺跡を巡ってきて、ヒヅキはそう強く感じる。魔法をはじめとした様々な部分で昔の方が勝っていた。無論、全てが同じ時代とは限らないが、それでも遺っているモノの評価はそれぐらい感じてしまうほどだった。
ヒヅキがそう感じている間に、女性はさっさと神殿内に入ろうと近づいていく。
神殿の入り口は特に飾り気がない代りに、非常に大きな門が設置されていたのだが、女性はその門ではなく、そこから少し離れた場所に設けられた壁の一部に手を当てて、何故かそこに魔力を流しはじめる。
女性が触れている場所は周囲の壁と何ら変わりがなく、そこに扉があるという事も無い。それに、足下や周辺の壁などに目を配ってみても、そこに何かしらの目印がある様子も見受けられなかった。
なので傍から見れば、まるで女性が適当な場所で壁に魔力を流しているようにしか見えない。実際ヒヅキも、何故そこに、何があるのかと不思議に思ったほどだ。
しかし、女性が壁に魔力を流し始めて少しして、ゴゴゴゴゴという腹に響くような重い音が周囲に響き渡った。




