英雄達40
高度な魔法という事でヒヅキも気にはなったが、分からないのであればしょうがないと諦める。軽く調べただけではあるが、今までヒヅキが調べてきた魔法道具とは異なり、あまりにも複雑な造りであるのが容易に理解出来てしまったのだ。
ヒヅキが視線を扉から女性の方へと戻すと、女性はもういいのかと問うような視線を返してくる。
そんな視線に少し困ったような笑みを浮かべると、ヒヅキは小さく首を横に振った。
それを確認した女性は「そうですか」 と小さく口にすると、ヒヅキに背を向けて階段の方へと移動していく。ヒヅキもその後に続くと、階段を上っていく。
階段は1段1段が大きく、特に横幅がとても広い。一体どれだけの数の者がこの階段を使用していたというのか。それが気になる程度には大きい。もしかしたら単に見栄えを重視した結果に過ぎないのかもしれないが。
その階段も石で出来ているようで、踏み出した足裏に返ってくる感触は硬いものだ。周囲は岩肌がむき出しだというのに、階段だけ見た目が違うので非常に浮いている。
それに階段は厚みもあるので、上るのも少し面倒だ。そんな階段が遥か彼方まで続いているのだから、昔これを使っていたであろう当時の者達は凄いものであると、ヒヅキは変なところで感心した。
階段を上りながら、ヒヅキは上の様子を確認してみる。階段を上る前では、天井が邪魔をして上の様子は確認出来なかった。
「………………これはどうなっているのか」
上を見たヒヅキは、思わずといった感じで声を漏らしてしまった。しかし、それもしょうがない事かもしれない。なにせ、上部の様子は縦横無尽に階段が交差しているのだから普通の光景ではない。
怪訝な表情になったヒヅキは、現在上っている階段の先に目を向けるが、その先には普通の階段が続くばかり。
そんなヒヅキの様子に気がついた女性は、くすりと小さく笑った。
「やはり初めてこれを見る方はそうなりますよね」
1度上に顔を向けた後、女性はヒヅキの方に視線を向けて微笑ましげな表情を浮かべる。
「これは幻覚ですか?」
そんな女性に、ヒヅキは足下の階段と上部の階段の違いに疑問を呈する。それに女性は首を横に振った。
「いえ、あれは実際にありますよ。道が少々複雑になっていますが」
「階段ですよね? 枝分かれしているのですか?」
「いえ、階段自体は一本道なのですが、転移魔法が多用されていまして、階段の終わりと始まりに転移魔法が施されているのですよ」
そう言って女性が上を向けば、ヒヅキも視線を上に向ける。階段は入り組んではいるが、よく見れば直線の階段が行き交っているだけのようだ。その先は壁に続いているだけで、階段同士は繋がっていない。
「なるほど」
「これの意地の悪いところは、普通に階段を上っているだけでは絶対に上まで辿り着けない事でしょうね」
「そうなのですか?」
「ええ。あれだけ大量の階段が入り組んでいるので分かりにくいですが、普通に階段を上っているだけでは使用しない階段もあるのですよ。それと、気づけば同じ階段を何度も使用する事になります」
「では、どうすれば?」
「途中の階段から別の階段に飛び降りればいいのです。それを何度か繰り返すと、頂上まで続く階段に辿り着けますね。まぁその発想に至ったとしても、正しい道順を知っていなければ中々辿り着けませんが」
「それはまた……」
ここまで来られたとしても、頂上にまで辿り着かせる気がない設計に、ヒヅキは執念のようなものを感じる。よほど頂上の神殿には凄いものが在るのだろう。ヒヅキの中から英雄達を引きずり出すのだから、それも納得は出来るのだが。
それでも、やはりその手の込みようにヒヅキは心底呆れてしまうが、同時にそこまでした手の込みように感心もしてしまった。




