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英雄達34

 光球の明かりに映し出された室内は、かなり狭かった。人一人が暮らすにも不自由するだろうそこは、部屋というよりも牢屋。

 部屋の横幅はヒヅキ達が開けた扉2つ分ほどで、座って足を延ばすのも難儀しそうだ。奥行きも3、4メートルほどしかなく、高さはヒヅキが少し腰を屈めなければ部屋の中に入れないぐらい低い。

 部屋の中には何も無く、汚れてボロボロの服を着た干からびた死体だけが残っている。その死体も、手足と首に枷が嵌められ、壁や床に固定されて動けないようになっていた。

 その死体からは泡のように光の粒が浮かんでは周囲に消えている。おそらくその正体が空間を照らす明かりなのだろう。ヒヅキはそう予測しながらも、酷く寂しい室内に眉根を寄せた。

「また酷い有様ですね」

「そうですね。正しく魔法を発生させるための道具といったところですか」

 ヒヅキの言葉に同意を示しながら、女性は干からびた死体の傍まで近づいてしゃがみ込む。

 そのまま死体を調べるように視線を向けると、目を細めて何やら思案を始めた。その間、ヒヅキは室内の様子を調べていく。

 狭い室内は調べてみると、壁は手掘りで掘っただけのように造りが粗い。そんな様子が益々牢屋のようではあるが、窓などの換気出来そうな場所が見当たらないので、牢屋よりも酷いだろう。

 というよりも、ここに誰かを閉じ込めていたにしては何も無さ過ぎる。死体に枷が嵌められていたので、ここで生活していたという訳ではなさそうだが、それでも物置以下だ。

 何も無い狭い部屋なので、直ぐに一通り調べ終わる。ただただ劣悪な環境だとしか感想の持ちようがない室内に、ここの持ち主だったという宗教団体の闇の部分を感じた。と同時に、もしもこの技術が世間に広まるとどうなるのか、という答えのその一端に触れた気がした。いや、気がしたというよりは、こうなるのだろう。だからこそ秘匿されていた訳だろうし。

 そこまで考えたところで、もしかして良心が欠片ほどは残っていたのだろうか? 思わずそう考えずにはいられないぐらいには、この部屋は酷かった。

 ヒヅキがそんな事を考えていたところで、死体を調べていた女性が立ちあがる。

「何か分かりましたか?」

 ヒヅキの問い掛けに、女性は小さく肩を竦めてみせる。

「何も分からず、ですか?」

「いえ。分かりましたよ。そのうえで当時の状況を鑑みたのですが、おそらくこの者は龍人ではないかと」

「龍人……それは確かこの周辺に居たという」

「ええ、それです」

 ヒヅキは少し前に女性から教えもらった話を思い出す。

 龍人とは、龍と人とが番って生まれた存在だという。そして、この近くにはその龍人が作った町があったらしい。

「その龍人が何故ここで監禁されていたのでしょうか?」

 監禁理由は魔法を行使し続ける為の媒体としてだろうが、そこに至るまでの経緯が気になったヒヅキは、女性にそう問い掛ける。町が在ったらしいので、もしかしたらこの近辺には龍人が多かったのだろうかと考えながら。

「……邪悪な種族だからですよ」

「邪悪な種族ですか?」

 首を傾げたヒヅキに、女性は困ったように小さく笑う。

「ここを造った宗教の話は少ししましたよね?」

「ええ」

 ヒヅキはあまりはっきりとは覚えていないが、神殿について話す時に少し聞いたような気がして、そういえばと頷く。

「その時に話した通りに、ここの宗教の教えでは、龍は神の敵とされているのです。そして、龍人は龍と人との間に生まれた存在。つまりは存在そのものが罪という訳です」

「なるほど」

「ですので、丁度良かったのでしょうね。ここはそういった異端者の処刑場のひとつでもあったのでしょう」

「ではこの魔法は……」

「処刑方法のひとつでしょうね。せめて役に立てといった感じでしょうか」

「…………なるほど」

 干からびた死体に視線を向けたヒヅキは、なんとも言えない表情を浮かべる。それこそヒヅキにとっては、神の方こそが敵なのだから。

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