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英雄達32

「まぁ、ええ、そうでなのですが……ヒヅキは魔物に赤い石が在るのを見た事はありますか?」

「赤い石? ……ああっと、ええ、ありますよ」

 女性の言葉にヒヅキは記憶を辿ると、直ぐにそれらしい物を思い出して頷く。

 それを確認した女性は、僅かな間どう説明しようかと視線を逸らした。

「夜狼は色々な形で辛うじて生き残ったのですが、その系譜の最後があの赤い石なのです」

「あの赤い石は生き物なのですか?」

 ヒヅキの記憶では、何とも嫌な気配を漂わせていた赤い石だが、それでも生きているといった感じではなかった。敢えて表現するならば、怨念が込められているといったところが正しいだろう。

 そう思いヒヅキが訝しげに問い掛けると、女性は何とも言えない表情を浮かべた。

「あれは生き物……と呼べるのですかね? 正直、夜狼まではまだ生き物と呼べますが、その後継たる影狼辺りから怪しいのですよね」

「………………」

 女性は悩ましげにそう口にするが、ヒヅキにはそもそも夜狼の時点から先程聞いたばかりなのだ、まるで問うような口調で言われてもヒヅキには答えようがない。

 なので、私は困惑していますといった表情を返したヒヅキに気づいた女性は、申し訳なさそうな顔をした。

「生き物かどうかはとにかく、あの赤い石に意思はあると思いますよ。そして、その力によって存在が歪まされた存在が魔物なのですから」

「そうなのですか?」

 女性の説明に、ヒヅキはウィンディーネに聞いた話と違うなと思ったものの、どちらが正しいのかヒヅキには分からない。そんなヒヅキの考えを察した訳ではないだろうが、女性は追加で説明を始める。

「ただ、魔物にももう1種類存在していまして、そちらは神に影響されて変質してしまった魔物です。神はその名に偽りなく強大な存在ですので、離れていても弱い相手には影響を及ぼしてしまいますから」

「なるほど」

 その説明を聞いて、ヒヅキはどちらも正しかった事を知る。それにしても、どちらにしろ動物は被害者だったが。

 そんな、変化を強要する話に、ヒヅキは思わず自身を重ねてしまい、嫌悪感を抱いてしまう。

 僅かではあるがそのヒヅキの変化を感じ取ったのか、女性は僅かに悲しそうな、それでいて慈しむような表情を向ける。

 しかしそれも一瞬の事で、それにヒヅキは気づく事はなかった。

「そういう訳で、そんな魔物の祖とも言える夜狼の対策として、ここは明るいのです。明るいと夜狼は近づきもしませんから」

「そうだったのですね」

 女性は歩き出すと、そう言って締めくくる。

「しかし、それはもう随分と昔の話なのですよね?」

「ええ、そうですね」

「では、何故ここはまだ明るいのですか? それほどに永く継続する魔法なのですか?」

 半永久的とも言えるほどに永きに渡りこの空間を明るく照らしているだろう魔法に、ヒヅキは興味深げに問い掛ける。それを受けて女性は、少し先を指差した。

「あの先にこの魔法の術者が居ますので、それのおかげでしょう」

「………………術者? ここにはまだ人が居るのですか?」

「生きてはいませんがね」

 驚きと困惑の混ざったヒヅキの呟きに、女性は肩を竦めてそう応える。

 それにヒヅキはどういう意味かと眉根を寄せる。死者が魔法を使っているとでも言うのだろうか。

「死んでいるのに魔法を行使しているのですか?」

「そういう特殊な技法が存在していたのですよ。目的の神殿を建てた宗教団体の秘奥のようなものですが。それに厳重に秘匿もされていましたので、私でも存在を知っているだけで、やり方までは知りません」

「そうなのですか」

 女性でも知らないとは、その秘奥とやらはどれだけ厳重に秘匿されていたのかと、ヒヅキは好奇心と共に驚きと感心がない交ぜになった思いを抱く。

 それとも、そんなモノを知っているという女性の方が凄いのだろうかとも考えた。普通に考えれば、どれだけ永く生きていようとも、この世の全てを知る事など出来ようはずがないのだから。

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