英雄達25
「魔法が上手くいかないのであれば、その魔法を以前に作った装飾品に組み込んでは如何でしょうか?」
つまり魔法の行使が難しいのであれば、魔法道具でそれを補ってはどうかという提案。
確かに魔法道具であれば、魔力を通すだけなので余計な邪魔は入らないだろう。実際、転移の魔法を組み込んだ魔法道具は問題なく起動していた。
そういった実績もあるので、ヒヅキは女性の提案になるほどと思い検討する。ヒヅキは魔法道具というのに親しみが薄いので、こういう場面で魔法道具を活用するという発想がそうそう浮かんではこないのだった。
(装飾品の数は限られている。しかし、何かしらの補助魔法を魔法道具に組み込むというのは悪くない)
ヒヅキは女性の提案を受けた場合について思案してみる。すると、存外悪くない選択のような気がしてきた。
(攻撃の面では、中距離や閉所での戦闘には少々難があるものの、概ね問題はない。なので、魔法道具にするとしたら護りか補助が優先されるか)
現在の自身の状況を考慮しながら、ヒヅキは残りの装飾品の使い方も考えてみる。ひとつ候補が決まると、一気に他の部分も埋まっていく。
(ひとつぐらいは攻撃に回すとしても、ここで補助魔法に割り振っても問題ないか。むしろその方がいい? 耐久性に優れた金属らしいから、護りや補助に向いていそうだし)
攻撃魔法と比較しても、防御や補助というのは使用頻度が高い傾向にある。であればこそ、組み込んだ魔法を頻繁に使用しても壊れにくいという金属の特性は都合がよかった。
そうして考えれば考えるほどに、女性の提案は魅力的に映る。組み込む魔法も、周囲の温度の変化に対応出来るようになる魔法なので、選択としては悪くない。
懸念があるとすれば、幾つ装飾品が必要かだ。寒さに対する魔法だけではなく、騒音に対する魔法。それに、ここまでくれば暑さに対する魔法も欲しいところだろう。
つまり最低でも3つ装飾品が必要という事になる。まだ余裕は在るとはいえ、流石に一気にそれだけ使用するのは抵抗を感じてしまう。だが、この先それが必要なのは理解している。
どうしようかと悩むも、とりあえず寒さ対策だけは必要だよなという結論に達する。既にヒヅキの魔法だけでは寒さを防ぎ切れているとは言い難い。
そういう訳で、女性にその旨を伝えてみる。寒さを遮断する魔法を組み込んでほしいと。
それを受けた女性は、騒音対策の方はいいのかと問い掛けてくる。それと、寒さだけではなく暑さにも対応した方がいいのではないかとも。
そんな女性に、ヒヅキは先程考えた事を話す。女性はその辺りの事情を知っているので、話すのは問題ない。
それを受けた女性は少し考えた後に、「では、ひとつに纏めては?」 と軽い調子で口にした。
「可能なのですか?」
続いたその女性の提案に、ヒヅキは驚く。
複数の魔法が組み込まれている魔法道具はそれほど珍しくはないが、それでも小さな装飾品に女性の組み込むような高品質な魔法を複数組み込むとなると話は別だ。
魔法道具についてそこまで詳しい訳ではないが、それぐらいはヒヅキでも理解している。むしろ1つだけでも女性の魔法なら許容量を超えているのではないかと思うほど。まぁ、その辺りは装飾品に使用した素材が優秀という事だろう。
「問題ありませんよ。それに全ての魔法をひとつに纏めるので、組み込む魔法はひとつだけです」
「そうなのですか?」
その女性の話を聞いたヒヅキは、どういう意味だと首を傾げた。
どうやら女性の言うひとつに纏めるとは、装飾品のひとつに全ての魔法を組み込むという意味ではないようだ。いや、言葉の意味合い的には間違っていないのだろうが、それでもヒヅキの考える意味とは異なってるのは確かだろう。




