英雄達18
行使は勿論、陣を組み込む事すら不可能な魔法。しかし、目の前には実際にその不可能な魔法が組み込まれた魔法道具が存在している。それを知って疑問に思わない者は居ないだろう。
御多分に洩れずヒヅキもその疑問を持ったので、すぐさま女性に訊いてみる事にした。
「しかし、あの壁にはその魔法が組み込まれているのですよね?」
「ええ。そうですね。でなければここには入ってこられませんから」
「組み込むと死ぬ魔法をどうやって組み込んだのですか?」
「それは組み込める相手に頼めば解決する。というだけですよ」
「……組み込める相手ですか?」
どういう意味だと怪訝な表情をするヒヅキ。しかし、先程の話を聞いていればそう思うのも当然だろう。誰も組み込めないと言っていたようなものなのだから。
女性もその疑問は当然想定していたようで、やや重々しく頷く。しかし、ヒヅキにはそれは芝居がかった仕草にしか見えなかったが。
「それは神ですよ」
「神……確かに先程の話を聞けば、神であれば行使出来そうですが……しかしどうやって? お願いしますと頼めば組み込んでくれるのですか?」
困惑したように難しい顔をしながら、ヒヅキは女性に真意を尋ねる。
「ええ。頼むのです。そうすれば人の手に余るほどの魔法が組み込まれる訳です」
「……………………」
その答えに、ヒヅキはどう反応すればいいのかと考える。馬鹿にされているのかとも一瞬思ったが、今まで女性に揶揄われた事はあっても、見下されたような記憶が無かったので、おそらくそれはないだろうと判断する。
ではどういう意味かと首を捻るも、事実そうなのだろうとしか思い当たらない。まさか死んだら星になるとでも言いだす訳ではないだろうが。
そんな風にヒヅキが困惑している姿を眺めた後、女性は口元に小さな笑みを浮かべて続きを話す。
「もっとも、ただ頼めばいい訳ではありません。手順に沿って魔法を構築していく必要があります。当時は儀式魔法と呼称されていた魔法ですね。その魔法道具は、目的の神殿を造った者達がわざわざ儀式魔法を行ってまで用意した代物です」
「そうなんですか。その儀式魔法というのは?」
「分かりやすく言うのであれば、多人数で行使する大規模魔法ですね」
「そんなモノが?」
ヒヅキは直ぐに記憶を探ってみるも、該当しそうな項目はない。魔法というモノは中々に繊細なので、二人で行使するだけでもどれだけ大変か、ヒヅキでも想像に難くない。
そんな魔法を多人数で行使するというのだ、ヒヅキにしてみれば正気の沙汰とは思えなかった。
「今も数名程度で行使する魔法ぐらいは残っていると思いますが?」
そんなヒヅキへと、女性は何かを思い出したように告げてくる。しかし、ヒヅキの記憶にはそれも存在しない。魔法関連の情報は関係のない者達にはとにかく流れてこない。ヒヅキの場合はある程度積極的に探してそれなので、昔は知らないが、今も存在しているというのは信じられなかった。
それでも女性が適当な事を言うとも思えないので、もしかした独りで調べている時にそんな魔法を目にしたのかもしれない。
そう思うと、ヒヅキは複数人で行使する魔法と言うのを少し見たいなと思う。しかし、そう簡単な話でもないだろう。第一、今も使い手が生き残っているのかもわからない。
「そうなのですか? 私は詳しくないので知りませんが」
なので、ヒヅキは正直にそう告げる。もしかしたら詳細でも聞けないだろうかと思いながら。
「そうでしたか。以前ヒヅキと共に人間の街を訪れた際に見かけたので、もしやと思ったのですが」
女性の言葉に、ヒヅキは記憶を探る。女性と共に行った人間の街と言えば、カーディニア王国の首都ガーデンぐらいだ。その頃には既に他の街は存在していなかったのだから。
「ガーデンで、ですか? あそこにそんなモノが在ったのですか?」
しかし、そちらに関しては記憶にないので、ヒヅキはそれでも記憶を探りながら女性に問い掛けた。




