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英雄達8

「他の者達は?」

 ヒヅキの探知範囲にもそれなりの数の反応はあるが、総数を知らないのでそれが全てとは限らない。なので、ヒヅキは女性に問い掛けてみる。

「食材の調達に出ているようですね。特に水汲みは小規模な水源が点在しているだけなので、そこから毎日手分けして採りに行っているようです」

「なるほど。危険な存在が居ないからこそ可能な事ですね」

「そうですね。対処可能な存在しか居ませんから。それでも油断は出来ませんが」

「それで、どうしますか? 分かれているなら今の方が回収しやすいと思いますが」

「そうですね……交渉から行うにしても、その方がいいかもしれませんね」

 ヒヅキの言葉に頷いた女性は、さてどちらから行こうかと僅かに思案するも、直ぐに移動を始めた。

「魔族の方が離れているので、まずはそちらから接触してみますか。逃げられる心配はないでしょうが、近くに仲間が居ない方が交渉しやすいでしょう」

 移動しながらヒヅキにそう説明すると、女性は少し移動速度を上げる。分かれ道に横道が幾つも現れるが、女性の足取りは一切鈍る事はない。

 程なくして目的の場所に到着する。そこは行き止まりで、奥の方に小さな水溜まりが見える。

 そこに一人の人物が居た。少女のようにも少年のようにも見えるあどけない顔立ちのその人物だが、背丈は高く2メートル近い。

 それを見ても、大型のスキアや魔物を見慣れているので、ヒヅキは背が高いな程度にしか思わなかった。

 だが、突然見知らぬ人物が現れた相手は非常に驚いたようで、丁度手に持っていた水が入っているのだろう入れ物を落としそうになっている。

「え、あ、え? 誰?」

 少しして落ち着いてくると、戸惑いと怯えが見えてくる。見た目は背の高い人間と大して変わりはないので、魔族と言っても魔力量も大した事ないのかもしれない。とはいえ、魔力量の多い魔族全員が見た目に変化がある訳ではないらしいが。

 とりあえずヒヅキは、女性の出方を窺う。どちらが交渉するかは決めていなかったが、今でも女性が前に出ているので、女性が交渉するのだろうかと考えたのだ。

 相手が落ち着いてくるまでジッと眺めていた女性は、そろそろ話が出来るだろうと判断したのか、口を開いた。

「よろしいですか?」

「ふぇ? あ、はい。な、なんですか?」

 一瞬誰に言っているのか分からないといった表情をした魔族だったが、直ぐに自分に対して言っているのだと理解して、緊張と怯えの中で返事をする。

 その声音は顔立ち通りに幼く感じたが、口調からはそれよりは幾らか年を重ねているのを感じた。

「突然ですが、貴方が所持している欠片を譲っていただきたく参上致しました」

「か、欠片ですか?」

 説明不足な説明に、魔族は困惑しながら同じ言葉を返す。それに、女性は穏やかな言葉の内容とは裏腹に、口調は何処となく威圧的で有無を言わせない感が出ている。

「おそらくこれぐらいだと思われる半透明な欠片です。水晶のようにも見えるでしょう」

 女性は両手の親指と人差し指を使って大きさを示すと、思い出したようにヒヅキがそれを指す時に口にしている言葉を付け加えた。

 その説明を聞いた魔族は女性が何の事を言っているのか理解出来たのか、僅かに逡巡した後、おずおずと首に掛かっている紐を持ち上げる。

 質素な紐の先に在ったのは、透明度の低い小さな容れ物。その中に目的の欠片が納められていた。欠片は加工出来ないので、そうやっているのかもしれない。

「こ、これですか?」

「はい、それです。それを譲って頂けませんか?」

「ひぃっ!!」

「おっと。これは失礼しました」

 相変わらず何処となく威圧的な口調ながらも、穏やかな表情で女性がそう告げる。しかしその際、ほんの僅かだが女性から殺気が漏れていた。女性のことだ、確実にわざとだろう。

 ヒヅキぐらいであればその程度問題ではないが、一般的な冒険者ぐらいの腕前しかない相手では、それは肉食獣が口を開いて眼前に迫っているに等しい。つまりは命の危機。

 その証拠に、魔族は尻餅をついて可愛そうなまでに震えていた。その際に持っていた容器から水を被ったようだが、それすら気にしていない。石の床の上に尻餅をついた際の痛みすら感じていないように思われた。

 その小動物のような様子に、ヒヅキは流石に可哀想だなと思わなくもなったが、しかし水晶の欠片を回収する方が優先なので、それは頭の外に追いやる。相手があまりにも強情な場合は最終的に殺めるつもりなのだから、そんな考えはそもそも不要であった。

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