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テトラ164

 うんとヒヅキが腕を組んで考えている間に山の中に入れた金属がいい感じに溶けたのだろう、入る時同様にひとりでに山の中から出てくる。

 それを見た女性はヒヅキの許から離れると、溶けた金属の近くまで移動して箱の中を確認してから、ひとつ頷いて作業を行う。

 箱の上に女性が手を翳すと、溶けた金属がうねうねと蠢き出し、まるで意思でもあるかのように動いて奇麗な球体に変化する。

 その後も粘土をこねるように形を変化させていった金属だが、やがて少し固くなってきたところで、筒状の形に変化していった。

 金属が筒状に変化したところで、女性はヒヅキの方に視線を向ける。視線の先では、目を瞑り顎に手を当てて思案しているヒヅキの姿。よほどの難問のようで、難しい顔をしている。

 しかし、女性はそんなことは気にせず、視線を金属の方に戻す。

 女性が金属の方に視線を戻すと、筒状になっていた金属の円の大きさが少し変化した。先程女性がヒヅキの方に顔を向けたのは、腕の太さを確認する為だったのだろう。

 そうして円筒形の金属の輪を満足のいく太さに変化させると、今度は外周部分に細かな線が引かれ、精緻な模様が刻まれていく。内周部分には文字や記号などが複雑に重なり合った陣が浮かび始めた。

 程なくしてそれも完成すると、内周部分の陣が金属の中に沈むようにして消える。外周部分の模様はそのままだが、おかげでかなり高価な品に見える。

 女性は少し考えると、ヒヅキの趣味に合わないかと思い、輝くような薄い青色をしている金属の腕輪を、錆びた銅のような色合いに変化させた。どうやら女性は外周部分の模様の方を変える気はないらしい。

 そうして完成させた腕輪を手に取ると、それを未だに悩んでいるヒヅキの方へと差し出した。

「出来ましたよ」

 女性のその言葉に意識を戻したヒヅキは、女性が持つ腕輪に目を向けて、若干驚いたように目を開く。

「それが転移魔法陣の腕輪ですか?」

「ええ。少々大きめに作りましたが、多少ですが大きさが変わるようにしてありますので、問題ないでしょう」

 女性に近づいて腕輪を受け取ったヒヅキは、まだほんのりと温かいそれをつぶさに観察する。

 錆びた銅色のその腕輪だが、手触りはつるつるとしていて指が表面を滑るようだ。

 外側の細工は精緻なもので、まるで本物の蔦が腕輪に絡んでいるかのようでいて、途中途中に彫られている葉っぱも銅色だというのに活き活きとしているように見えた。葉っぱは葉脈以外の部分は穴が開けられている。

 内側には何も彫られてはいないが、縁の部分が少し盛り上がっているようで、腕輪の内側全体が肌に触れないように出来ている。

 観察を終えたヒヅキは、腕輪を腕に通してみる。輪の一部を開閉して取り付ける腕輪ではないので、手から入れて腕に通す。

 腕に通した後、腕輪を手首のやや上まで持ってくると、ここらでいいかとそこで止める。そうすると腕輪が僅かに縮み、腕を振ってもずれないぐらいにしっかりと嵌った。それでいてきつくないので丁度いい。

 取り外す時は腕輪に手を掛けて素早く左右に数回動かすと、僅かに拡がって動くようになるようだ。

 そうして使い心地を確かめたヒヅキへと、女性は組み込んだ魔法について説明を始めた。

「その腕輪に組み込んでいるのは、予定通りに転移魔法です。腕輪の内側に陣を刻んでいますので、そちらの方に魔力を流していただければ、転移魔法が発動します。距離に関しては魔力量次第ですので、そちらはご自身で確かめていってください」

「分かりました」

 女性の説明に、ヒヅキは頷く。今すぐにでも試したそうなヒヅキに、女性は僅かに苦笑を浮かべながら言葉を続ける。

「それで、他に何か作るか決まりましたか? それとも何も作らないでいいですか?」

「あ、えっと、それは……」

 その女性の問いに、ヒヅキは途端に困ったような表情を浮かべる。その反応だけで、まだ決まっていないのがよく分かった。

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