テトラ159
転移魔法陣で転移した先は出口近く。だが、行きとは違う場所であった。
出口近くだというのは、近くに外へと出る場所が在ったから間違いないだろう。遺跡かどうかは分からないが。
「ここは?」
振り返ると、そこには壁しかない。動物でも棲んでいそうな何処かの洞穴といった場所で、先程まで居た遺跡とは別の場所にしか見えない。いや、そもそも現在居る行き止まりから出口までは一本道のようなので、完全に別の場所なのだろう。そう思い、ヒヅキは近くに居た女性にそう声を掛けた。
「ここは遺跡の別の出口ですね。と言いましても、こうして転移魔法陣の出口としてしか機能していませんが。場所としましては、魔族の首都とは反対側の外縁近くの森の中です」
「なるほど。ここも遺跡の一部でいいのですか?」
「ええ。転移魔法陣の転移先ですし、この中へは外から入れないようになっているのですよ」
「そうなのですか?」
ヒヅキは入り口の方に目を向ける。
現在外は昼頃なのか、森の木々を通り抜けた優しい光が、ぽっかりと開いている洞窟の出入り口から洞窟内へと降り注いでいる。それ以外には洞窟の外に何本もの木々が確認出来るも、その間を何かが遮っているような感じはしない。このまま出口を通って外に出ても直ぐに戻ってこられそうなほどだ。
今までの事から女性の言葉は嘘ではないだろうとは思うのだが、どれだけ注意深く見てみても、やはり何かがそこに在るとは思えなかった。
「外に出ると入り口が閉ざされてしまうので、そこには何も無くなり、入ろうにも入れなくなるのです」
「そうなんですね」
「ええ。まぁ、入り口が閉じると言いましても、あの出入り口は一方通行というだけですが」
「なるほど。しかし、何も無いように見えますね」
「そうですね。実際何もありませんから」
「どういう事です?」
「実はここは別の世界なのですよ。そして、あの出口が向こうの世界との入り口。なので、出ると入り口が消えてそこには何も無くなるのです。中に誰かが居ても、入り口は現れませんので、外から見たら何も無い空間から出てきたように見えるでしょうね」
女性の説明に、時の狭間の世界へと何度も行き来したヒヅキは、なるほどと納得した。それと共に、別世界へと転移も出来るのだなとも思いながら。
「それでは出ましょうか。ここに居てもやる事はないですから……ああ、それとも休憩していきますか? 最近休憩はあまりしていなかったので」
外へと歩き出そうとした女性は、そこではたと思い出してヒヅキにそう問い掛ける。女性に休憩は不要であるが、ヒヅキにはたまに必要なのを思い出したのだ。
その女性の提案に、ヒヅキは少し考えて受ける事にした。確かに最近は休憩も少なく、食事も移動しながらが多かったなと思い出したのだろう。
ヒヅキが足下の状態を確認すると、岩肌なので硬くはあるが、凹凸はあまり激しくない。これなら大丈夫かと思い、背嚢から防水布を取り出してそこに敷く。
それにヒヅキが腰掛けると、その隣に女性が座る。防水布は小さいので、くっ付くほどに詰めても4人ぐらいしか座れないだろう。
防水布の上に腰掛けたヒヅキは、まずは水筒内の魔力水の確認を行う。あの遺跡は下に行くほど魔力濃度が上がっていたので、水筒内の魔力水はあまり減っていない。
どうしようかと考えたヒヅキだったが、念のために中身を新しくしておこうと決めて、水筒内の魔力水を飲み干していく。
洞窟内は魔力濃度がむしろ低いほどだったので、魔力過多とはならずに済んだ。
一気に魔力水を飲んで水筒内を空にすると、水瓶を空間収納から取り出して水筒内に魔力水を補充していく。
それが済むと、一応女性に魔力水を飲むか尋ねた後、要らないと言われたのでヒヅキは空間収納に水瓶を仕舞う。それにも大分慣れたものだ。
水瓶を仕舞った後、干し肉を取り出すヒヅキ。こちらは背嚢から小分けされた袋ごと外に出して、袋の中から干し肉を取り出す。
取り出したそれを齧りながら、ヒヅキは次は深淵種達の方だろうなと、ぼんやりと考えた。




