テトラ158
そこまで考えたヒヅキは、一応女性にその事を伝えておくことにする。女性が何か対策を施しているかもしれないが、ヒヅキはそれを知らないので、過信もよくはないだろう。
「えっと、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
ヒヅキが前を歩く女性に声を掛けると、女性は立ち止まり振り返る。
「これから鏡の在った階層まで戻るのですよね?」
「ええ、そうですよ」
「であれば、時の狭間の世界から戻った時に穴の中に出ると思うのですが、そのまま上へと登るのは、私では難しいと思うのですが」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。これから向かう先はその階層の別の出口ですから」
「別の出口? あの階層には他にもここへの道が在ったのですか?」
「ええ。ですが、こちら側から向こう側への一方通行なので、向こう側からこちら側へは来られませんが」
「そうなのですか」
「そして、出口は入り口同様に守護者が居た部屋ですよ。ああ因みに、入り口は既に閉じていると思いますよ」
「? どういう事ですか?」
「そのままの意味ですよ。ここは神の創りし遺跡。傷を付けても時間経過で勝手に直るのです」
「そう、なのですか」
「ええ。ですが、穴を掘って中に何かを入れても、修復と同時に外に出てしまいますがね」
「なるほど」
ヒヅキは頷きながら、危惧していた問題が解決したので内心で安堵した。
それから移動を再開した女性にしばらく付いていくと、いつもの門が現れる。ただし、今までと違って今回の門は色がやや薄い。
(一方通行だからだろうか?)
それ以外に違いを知らないヒヅキは、色が薄い理由をそう推測する。とはいえ、問題なく通過出来るのであれば別にそんな事は問題ではないのだが。
程なくして門の前まで到着すると、女性はそのまま門の中に入っていく。ヒヅキもそれに続いて門を潜る。
門を潜ると、部屋に取り付けられている魔法道具の明かりが目に飛び込み、それが染みて思わず目を瞑る。そこまで強い明かりでは無いとはいえ、時の狭間の世界は星と人物しか明るくなかったからか、思ったよりも目に染みたらしい。
それも直ぐに回復すると、改めて部屋を見回す。
門から出た場所は、女性の言っていた通りに守護者の部屋のようだが、行きで女性に潰されたはずの守護者が元に戻っていた。
元の位置に戻っている守護者の足下には、開けたはずの穴も無い。まるで同じ造りの別の部屋に来てしまったかのような思いだが、おそらくそうではないのだろう。
ヒヅキは無駄に広い空間のあった部屋の奥に立っていたが、女性は既に入り口近くまで移動していた。
慌ててヒヅキはそちらに移動する。それでも女性と合流出来たのは、部屋の外であった。
「守護者は何も反応しませんでしたね」
通路に出たヒヅキは振り返り入り口から守護者の様子を確認するも、動いた様子は全くない。
「守護者が反応するのは、部屋の外から入ってきた者ですからね。部屋の中から入ったのであれば、再び入り口から入らない限りは反応しませんよ」
「なるほど。そんな仕組みなのですね」
女性の説明に感心したように頷くヒヅキ。仕組みの方も気になったが、そもそも守護者自体が不明な存在なので、その程度は出来て当然なのかもしれない。
通路に出た女性は、そのまま向かい側の転移魔法陣が在るという部屋に入る。
「ここはまぁ……真っ直ぐ部屋の中央まで歩けば問題なく転移出来ますよ。遅れないように気をつけてください」
途中で説明に疲れたのか、女性は一瞬言い淀んだ後に簡潔にそう説明した。
その後、女性は先行して中央まで歩いていく。ヒヅキも忠告通りにその後に遅れないように付いていくと、部屋の中央辺りまで近づいたところで転移魔法陣が床に浮かび上がり、転移魔法が発動する。
転移魔法の発動と共に一瞬で転移したヒヅキだったが、それまでの僅かな間に床に描かれた転移魔法陣の形を必死に頭に焼きつけていた。




