護衛任務11
ロック城塞での朝食は、保存食の堅いパンとスープだけであったがスープの方は湯気が立ち上る程に温かく、具材もそこそこの量の野菜に少量とはいえ肉までもが入っていて、思いの外に贅沢なものであった。
パンもスープに浸して柔らかくして食べれば何の問題もない。
そのちょっと豪勢な朝食を満喫した一行は、一度荷物を取りに宿泊した部屋へと戻ると、腹が満ちた満足げな足取りでロック城塞の門へと移動する。
そこには、糧食や飲み水、布や薬品などの消耗品類の補充が、複数の荷台に分けて載せられた状態で用意されていた。
それをシロッカスが、一際立派な装備に身を包んだ兵士が差し出した書面にサインをしてから受け取ると、一行はロック城塞を後にしたのだった。
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ロック城塞を後にして数日、ロック城塞に向かう途中で補給の為に寄った町に、再度減った物資を補給する為に立ち寄る。
その町は前線からそう離れていないからか、少し人通りが静かな町であった。
物資調達班は行きと同じ店を巡り、必要な物資を補充していく。
その内訳は、ロック城塞で補充したばかりなので、食料が主であった。
朝に到着してから補充の為に町を歩き、それが済んだ頃にはすっかり昼も過ぎていたのだが、一行は町に泊まることなく町を発って帰路を進む。
帰路への歩みも、夕方になると夜営の準備の為に止まってしまう。
夜営の準備に入った人足たちから少し離れた場所では、ヒヅキたち護衛が周囲を警戒していた。
その警戒中のヒヅキの下に、ムゲンが様子を見に現れる。
「どうだ? 何か変わったことはないか?」
「ありません。周囲はいたって平和なものです」
「そうか。それは何よりだ」
ヒヅキの返答に重々しく頷いたムゲンは、ヒヅキを見て、ふむと何かを考え込む。
「どうかしましたか?」
ヒヅキの問いを受け、ムゲンは一瞬迷ったように視線をさ迷わせるも、直ぐに口を開いた。
「ヒヅキ君は冒険者ではないのだよね?」
「はい、そうですが……?」
「ふーむ。では、何でそんなに強いのだろうか?」
ムゲンの疑問に、ヒヅキは困ったように首を捻る。
この力が何なのかについては、当人であるヒヅキ自身が誰よりも一番知りたい事であった。
「いや、詮無き事を訊いたな。今のは忘れてくれ」
ヒヅキの反応に、ムゲンは首を横に振って話を打ち切る。
「それでは、引き続き警戒の方は頼んだよ」
片手を軽く上げたムゲンは、そう言い残して陣営の方へと戻っていった。
「……結局、何しに来たんだろう?」
状況確認だけが目的であったのか、それとも他に何か意図があったのかまではヒヅキには分かりようがなかったが、やはりこの力が異質なのだという事は間違いない。という事だけは、改めてはっきりしたのだった。