テトラ141
ヒヅキの返答を聞いた女性は、構えるでもなく普通に部屋に足を踏み入れる。女性が部屋の中に入ると、一斉に魔物の意識が女性へと集中したのが分かった。
見えない意識が壁となって感じるほどの圧を発生させるが、女性はそれを欠片も気にした様子もなく、更に部屋の中へと足を一歩踏み出す。
それで魔物達が一斉に女性へと襲い掛かろうとするも、その時には既に決着がついていた。
女性が2歩進んだ時には、部屋の中に居た魔物は奇麗に全滅していたのだから。魔物は数10体は居たというのに、本当に一瞬の出来事であった。
部屋が広いのでヒヅキはその全容を直接見た訳ではないが、それでも捕捉していた部屋の魔物の反応が1体も無いので、そういう事なのだろう。
一瞬の出来事ではあったが、ヒヅキは早く終わるのであればそれでいいかと思い、女性の後を追うように部屋の中に足を踏み入れる。
その後は女性に続いて罠を回避しながら部屋の中を移動し、部屋の奥に在った階下へと続く階段の前に到着した。
「この下が宝の間なのですか?」
「直通ではないですね。ですが、階下の階層は狭いので直ぐに到達しますよ。直線の通路と部屋が3つ在るだけですから」
「そうなのですか。その3つの部屋には何が?」
「1つは当然宝の間ですね。その部屋の中央に台座があり、そこに置かれた箱の中に収められた鏡が眠っています。2つ目は守護者の部屋。ここは一見すると上の階層で見たような守護者しか居ませんが、その実、地下へと続く道が埋め立てられた場所ですね。次の階層での目的地です。3つ目は一見すると何も無い部屋なのですが、この部屋は中央まで近づくと転移魔法陣が起動して、この遺跡の地上部分まで飛ばされるようになっています。それもこの下から地上部分への一方通行。なので遺跡を出るには便利ですが、これの起動条件は陣の中央に近づく事だけですので、宝を取得したかどうかは関係ないというおまけつきです」
ヒヅキの質問に答え、女性は下の階層の説明を行ってくれる。どうやら階層内に魔物は居ないようだが、その代り守護者は居るようだ。
「なるほど。ここにも転移魔法陣が設置されているのですね」
「最初のあれとは転移させる向きが違うので、外から観察するぐらいなら出来ますよ。どうしますか?」
「可能であれば見たいですね」
「では、まずは転移魔法陣から見学しましょう。ですが、先程述べたようにある程度近づくと起動してしまいますので、近づきすぎないようにお願いします」
「分かりました」
「それでは、鏡はどうしますか? 結局誰も取得していないので、まだ箱の中に入っているはずですが」
「そうですね……一応それも取っておきたいですね」
「それがいいでしょう」
少し考えてヒヅキがそう言うと、女性もそれを勧める。以前にした女性の説明通りの性能であれば、これも無駄足にはならないだろう。
「では、行きましょうか」
「はい」
軽く休憩がてら会話を交わした後、女性はゆっくりと階段を下りていく。それに続いてヒヅキも階段を下りる。
その階段は、人一人通れる程度の狭い階段であった。ここに逃げ込めば、上の魔物のほとんどが入ってはこられないだろう。ヒヅキはそう考えた時に、そういえばと疑問を抱いた。
「魔物の補充は下から行うと聞きましたが、それはこの下ではないのですよね?」
「ええ、最下層からですから」
「道は繋がっていないという話でしたが、どうやって?」
「ああそれでしたら、先程通った階層に道が出来ているのですよ」
「道?」
「転移魔法陣みたいなものです。一方通行なので、こちらからは使用できません」
「そうなのですか」
「破壊は可能ですがね。かなりの労力をつぎ込めばですが」
「なるほど」
「そもそも、この遺跡の最奥。一応最下層ですが、何処にあると思いますか?」
「最下層なので、一番下の階層では?」
「そうですね。しかし実際は、時の狭間を経由した先に在るのですよ。魔物発生装置が置かれている場所とはまた別の世界ですが」
「そうなんですか」
道が途中で途切れているというだけでも驚きだというのに、封印が施されている最奥は時の狭間を越えた先に在るという。だからといって目的が変わる事はないが、面倒な造りの遺跡だなとヒヅキは思った。




