テトラ138
時の狭間から遺跡に戻るのは簡単だった。来た道を戻ればいい、ただそれだけ。
しかし、遺跡を探索中に女性が説明したように、時の狭間への出入り口は移動しているので、戻ってきた時は別の部屋だった。光球を現出させて部屋を見回してみても見た目はあまり変わらなかったが。
時の狭間への出入り内は、ヒヅキ達が出た数秒後には消失した。時の挟間から出てきたといっても、部屋に誰か居る事には変わりはないという事か。
そんな事を思いつつ、ヒヅキは部屋を出ていく女性の後を追う。
「ここは階層のどの辺りなのでしょうね?」
扉を出て直ぐに在るのは、真っ直ぐに延びる短い通路。行きの時とは違う道に、やはりここは別の部屋なんだなとヒヅキは一人頷く。
「そうですね……もう少し進んでみましょうか」
「それもそうですね」
周囲に目を向けた後、女性はヒヅキにそう提案する。
現在地が何処なのかを示すようなものもないので、その方がいいだろうと考えたヒヅキが承諾すると、女性は通路の方に歩み出す。
それから程なくして、次の部屋に到着したところで女性が部屋の様子を見回して告げる。
「大分入り口の方に戻されたようですね」
「分かるのですか?」
「ええ、まぁ。ここから順路に戻って下を目指すとなると……ほぼ振出しに戻ったようなものですね」
「なるほど」
第3階層は他の階層よりも部屋や通路が狭いからか、全体的に上2階層よりは狭いような気がした。それでも順路通りに迷わず進んでも、数時間で踏破可能というほど狭い訳ではない。
今から最初から進むとして、一日近い時間が掛かりそうだ。そう考えたヒヅキだが、そもそも元々何処まで進んでいたのか分からないので、実際の距離を知らない事に気がつく。それでもまぁ、かなり終盤に近づいていただろうと何となく思った。
女性を先頭に部屋を出て通路を進み、そのまま迷うことなく進んでいく。
途中からヒヅキも通った事のある通路に出た……のだろうが、ヒヅキには違いがよく分からなかった。暗いというのもあるだろうが、それにしても森の中より分かりにくい。
そんな中でも一切の迷いなく進む女性は、やはり何かしらの探知系の魔法を使用しているのか、それとも同じような見た目でも見分けがつくぐらいに見慣れているのか。
何にせよ先に進めるなら別にいいかとヒヅキは思う。魔物が出てきても女性が瞬殺するので、奇襲する形で襲い掛かってきた魔物の中には、ヒヅキが気づいた時には消滅しているという事もあった。
それからどれぐらい時間が経ったか。ヒヅキがひたすらに女性の背中を追っていると、あっさりと下への階段に辿り着く。下層へと続く階段がある部屋には、今回は誰も居なかった。
「ここは何も居ないのですね」
「ええ。居たとしてもあの魔物ですよ」
「そういえばそうでしたね」
この階層は木以外は何でも溶かしてしまう魔物が徘徊している階層だ。そんな場所で扉を護るとなれば、それこそ同族か同じ性質を持つ別の魔物となってしまうだろう。そんな魔物が見当たらないという事は、既に存在しないか別の場所に出かけているかという事だろう。
なんにせよその部屋には何も居ないので、そのまま進む事が出来るだろう。上の階層のように戦う必要はないようだ。
階段がある以外に罠のひとつもなく、本当に他の部屋と何ら変わりのないその部屋を通り、下へと延びる階段を下っていく。しっかりと造られた階段のようで、ヒビひとつ見当たらなかった。
途中から幅が広がった階段を下りていくと、程なくして次の階層に到着する。
光球に照らされている範囲で新しい階層を見回してみると、苔ではなく植物の蔦のようなモノで壁が覆われているのが確認出来る。
床は普通に岩肌がむき出しで、天井は高いのではっきりとは見えないが、それでも床と似ているように思う。他には何かないかと見回してみるも、壁以外は至って普通の地下施設といった感じに見えた。




