テトラ135
ヒヅキが夜空の中に飛び込むと、時間が来たのか一気に霧が晴れるように夜空は消滅した。
夜空の中に飛び込んだヒヅキがすぐさま周囲に目を向けると、直ぐに女性の姿を発見する。
そこは不思議な空間のようで、周囲には飛び込んだ夜空同様に藍色を混ぜたような明るめの黒色で、宝石を散りばめたかのように星のような瞬きが一面確認出来る。その様子は、満天の星と形容する以外に思いつかないほどに夜空だった。
それでいながら、そんな星の光量では到底あり得ぬほどにヒヅキと女性の姿がはっきりと見えている。
「……ここが時の挟間?」
「そうですよ」
周囲を確認して、その神秘的な雰囲気の空間にヒヅキが呆気にとられて言葉を零すと、女性がそれを肯定する。
「必要ないでしょうが一応言っておきますと、あの見えている光は星ではありませんよ」
「ええ、まぁ、そうでしょうね」
女性の言葉に、ヒヅキは頷く。瞬く光は夜空に浮かぶ星のようだが、現在居る場所はヒヅキが居た世界の地上ではないのだ、世界が微妙に異なるので、もしかしたら星の可能性もあるが、それでもヒヅキが見た事ある星とは異なっているだろう。
「では、あの光は何なんでしょうか?」
そう言ったからには、光の正体を知っているのではないか。そう思ったヒヅキは、女性の言葉に頷いた後にそう問い掛けた。
「世界ですよ」
「世界?」
「ええ。あの光の数だけ世界が存在しているのです。ヒヅキの言う別次元というやつですね。これでもほんの少しですが」
女性にそう教えられたヒヅキは、改めて周囲に目を向ける。
ヒヅキ達をぐるりと取り囲むように、頭上には小さな光で満ちていた。いやそれどころか、視線を下げれば足下にも小さな光が無数に広がっている。ヒヅキ達は空中にでも立っているのか、足下の光とは距離がありそうだった。
全周を覆う小さな光。それでも世界全ての数からすればほんの少しでしかないというのは、改めて特定の別次元への干渉の難しさが理解出来るというもの。
とはいえ、今はそれは横に措く。今回わざわざ時の狭間まで赴いたのは、時の狭間という場所に興味があったからというだけではなく、魔物を創造する装置も確認しておきたかったからだ。
なので、今はそれを先に済ませることにする。幾つも同時に対処していけるほどヒヅキは器用ではない。
「そうなんですか。本当に世界と言うのは数が多いのですね。それで、魔物を創造している装置というのはどちらに?」
先程周囲を確認した時にはそれらしい物はなかった。それどころか、ヒヅキの視界には女性以外の存在は確認出来ない。出来ても世界だという星のような小さな光だけ。
「そこにありますが……そうですね、近づけば認識出来るようになるかもしれませんね。ただし、そろそろ魔物が生み出されそうなので、気をつけてください」
「分かりました」
装置が見えないからといって魔物が見えないとは限らないが、もしも魔物も見えないのであれば、ヒヅキでは警戒のしようがないだろう。なので、ヒヅキは少し女性の背に隠れるような位置に移動する。数歩の距離は保っているので、触れる事はない。
それから少しして、女性が足を止める。ヒヅキもそれに倣って足を止めた。
「あれが見えますか?」
そう言って女性が指さした先には何も無い。ヒヅキは目を細めて凝視するが、そこにはやはり何もない。
困ったヒヅキは、目の疲れを解すように目頭を指で揉んでから改めて女性が示した場所を確認してみると、今度はあっさりと何かの物体が視界に映った。
その見えた物体は、ヒヅキの身長ほどの高さに吊るされた雫型の手のひらほどの何か。
下の方に行くにつれ広がる形のそれは、赤い色をしていた。それでいて底部は白色。吊るしているのは金属で出来た台で、大きな輪っかを足に棒のように真っ直ぐ伸びた胴体、頭の部分で直角に曲がり、その先にその装置が吊るされているだけ。
それを見たヒヅキは、雫型の部分が光っていたら玄関先にでも置いてある外灯のようだなと思った。




