テトラ130
「この階層でのみ生み出されている魔物で、不定形な姿の魔物です。基本は球体で這うように移動しています。壁でも天井でも何処でも張り付いて移動しますので、周囲の警戒はしっかりと行った方がいいでしょう。動きは非常に遅く、相手を捕食して溶かします。攻撃手段は直接捕食する以外に、自身の身体を構成している液体を飛ばしてきます。体の一部を鞭のようにしてきますが、範囲は数メートル程度です」
女性の説明を聞いて、ヒヅキは思い出す相手が居たが、今はそれよりも聞き捨てならない部分を問うことにした。
「魔物を生み出す、ですか?」
「はい……言ってませんでしたか?」
「ええ。上で混成獣の説明があったぐらいです」
ヒヅキの疑問に、女性は頷いた後に首を傾げる。その仕草は、記憶を探っているようにも見える。
しばらく二人の間に沈黙が流れた後、女性は「ああっ」 と小さく声を漏らした。どうやら思い出したようだ。
「そういえばそうでしたね。ここの遺跡の魔物は、大半がこの遺跡で創られた魔物です。一部地上部分と同じそうではない通常の魔物も居ますが、基本的にはここで魔物が創造されています。なので、ここの魔物は普通の魔物よりも強いという訳です。まぁ、最初から染まりきった魔物を創造する訳ではないようですが」
「どうやって魔物を生み出しているのですか?」
「ここは神の創りし遺跡。それぐらいあってもおかしくないと思いませんか?」
「……それは、まぁ」
女性の言葉に、ヒヅキは小さく頷く。確かにそれで納得出来るし、今までもそう思って深く考えていなかった部分もある。
しかし、遺跡に入って遭遇した魔物の数だけでも結構な数だ。それこそ、ヒヅキがこの遺跡以外で遭遇した魔物の総数の数倍、いや、10倍以上の数だろう。
それほどの数の魔物を創造するというのは、納得は出来ても気にはなるものだ。今後の敵の手札である可能性だってあるのだから。
「それでも気になると?」
「はい」
「そうですか。では、例えばこの階層ですが、ここでは他の階層とは異なり、ここで魔物を創造しています。他の階層の魔物は別の場所で創造された後に各階層に配置されます」
足を止めた女性は、ヒヅキの方へと振り返って説明を始める。それを客観的に捉えたヒヅキは、魔物が徘徊している遺跡内部でやる事ではないなと、内心で呟いた。
それでも興味があったので口にはしない。それに、女性が問題ないと判断しての行動であれば、ヒヅキが心配してもしなくとも問題ないのだろう。
「ここだけ別に創造が行われている理由については先程述べたので省略しますが、魔物の創造はこの階層の何処かの部屋で行われております。ただし、普通では見つけられません」
「どういう事でしょうか?」
まぁ当然だろうなと思いつつも、ヒヅキは女性に理由について尋ねる。そんな簡単にこの階層の要が見つけられる訳がないだろう。
「簡単に言えば隠されているのです」
「隠し部屋があるのですか?」
「ええ。ヒヅキはここの遺跡の名前を憶えていますか?」
「確か……『時の狭間の迷宮』 でしたか」
ヒヅキは記憶を探り、村で女性とそんな話をしたような覚えが薄っすらとあった。
「そうです」
どうやら合っていたらしい。何とか思い出せたことにヒヅキは密かに安堵する。
「それが何か?」
「隠し部屋の場所がその挟間ですからね」
「ふぅん?」
どういう事だと首を捻るヒヅキ。時の狭間。同時に記憶を探ってみるも、覚えがなかった。
「妙だと思いませんでしたか?」
「何がでしょうか?」
「この地下の広さがですよ」
「ああ、それは確かにそう思いましたけれど」
現在捜索中の遺跡は、何処までも深く何処まで広い。それについて疑問に感じたが、それこそ神が創ったからだとして納得しようとしていた。
「実はここ、普通に入り口の下に在る空間という訳ではないのですよ」
「では?」
「と言いましても、入り口の地下であるのは確かです。ここは空間が捻じ曲げられて広さがおかしくなっているだけですから」
「そうなんですか」
ヒヅキは自身の持つ背嚢のような仕組みだろうかと考えるも、その辺りは専門外なのでよく解らない。おそらく説明されてもヒヅキでは完全には理解出来ないだろう。




