テトラ128
第1階層の時よりも少し光量を強めにした光球に照らされた第3階層は、何故だか木目調の空間だった。
まるで何処かの屋敷か何かのようだが、ここは遺跡内で地下だ。それを知らなければ何処かの建物だと思っただろうが。
そこは部屋というよりも通路だろうか。高さは2メートルあるかどうかで、横幅は2メートル強といったところ。今まで通ってきた場所から考えれば随分と狭いが、ヒヅキが通る分にはやや広いぐらいなのでちょうどいい。それが更にここが何処かの建物のように思わせてくる。
ヒヅキが確認した範囲ではあるが、壁や床や天井に腐ったような場所はない。本当に木を使っているのかどうかは知らないが、足裏に返ってくる感触は木の板の上を歩いているようだ。
(湿気は少なく、温度は涼しいぐらい。太陽光も入ってこないし、避暑地の別荘としてなら高くで売れるかもな)
暗さも魔法道具でどうにかなるし。などとどうでもいい事を頭に浮かべつつ、ヒヅキは女性に付いて先へと進む。
そんな自分に気がつくと、感知範囲には魔物は引っ掛からないが気を抜きすぎだなと、ヒヅキは内心で苦笑した。
通路は結構長く、普通の家ではありえない長さだ。もうかれこれ1キロメートルほどは歩いているのではなかろうか。ずっと真っ直ぐ進んでいた訳ではないが、変わり映えのしない真っ暗な通路を進んでいるので、感覚がずれているかもしれない。
そうして通路を進んでいると、魔物の気配も幾つか捉える事が出来た。どれも上の階層よりも強そうな感じではあるが、まだ距離があるので詳しくは分からない。
(しかし、この通路がこの大きさという事は、ここの魔物もそれ相応の大きさという事だろうか?)
何か事情がない限り魔物は他の階層に移動する事は無いが、それでも同じ階層内であれば好き勝手徘徊したりもする。なので、階層の大きさはそこに住まう魔物の大きさに見合った大きさであるものだ。
現在ヒヅキが通っている通路は、ヒヅキぐらいの大きさの存在なければ通れない。大きくてもヒヅキより一回り程大きいのが精々だろう。
そんな場所なので、ヒヅキはこの場所の魔物は人型なのだろうかと推測する。
魔物は動物が高濃度の魔力によって変質した存在と言われているが、その動物の範囲には人も入っている。人間・エルフ・ドワーフなどの人が魔物に堕ちたという事例はごく少数ながら文献にも残っているのだ。
(上の階層でも似たようなのが居たからな)
ヒヅキが思い出すのは、教会のような場所に居た、神官のような見た目の魔物。あれは何処かの種族の者が魔物に堕ちた姿なのだろう。
その人であれば、ここも問題なく移動可能だ。今のヒヅキ達のように。
ヒヅキは周囲に目を向けながら、ここで戦闘する場合はどうしたらいいだろうかと頭の中で考える。といっても、打てる手はかなり少ないが。
(やはりここも光の剣が主体か)
通路が狭いので、第1階層のように魔物も大群で押し寄せてくる事はしないだろう。しかし、挟撃に合えば多少面倒ではある。とはいえ、狭いので同時に相手取る数は絞れるので、ヒヅキでも対処可能ではあるだろう。
通路の大きさを確認しながらヒヅキが思案していると、ようやく通路の終わりが見えてくる。
女性が先に部屋に入ると、その後に続いてヒヅキも部屋の中に足を踏み入れる。光球に照らされた場所を見てみるも、木目調なのは変わらない。軽く足先で床を叩いてみるも、返ってくる音と感触に変化は無かった。
ヒヅキが周囲を見回していると、女性は部屋の奥へと躊躇なく進む。女性は遺跡の内部構造を知っているようなので、とりあえず付いていけば最奥には辿り着く事が出来るだろう。
部屋の中には魔物の気配は無いとはいえ、それでも警戒は怠れない。
それから少し進むと、直ぐに部屋の反対側に到着する。どうやら部屋も今までよりも狭いようだ。
この階層全てがこの調子であるならば、やはりここに居る魔物は人とあまり変わりのない大きさなのかもしれない。




