護衛任務9
シラユリが食べることに夢中だったこともあり、ヒヅキの朝食の時間は実に平穏であった。
「ごちそうさまでした」
朝食を食べ終え、静かに手を合わせたヒヅキがシラユリの方へと目をやると、そこには何故だかこちらをじっと見上げるシラユリの姿があった。
「私の顔に何か付いてますか?」
それにヒヅキは内心では驚きつつも、それを感じさせない平静な態度で問い掛ける。
その問いに、シラユリは僅かに首を横に振ると、ヒヅキを見上げたまま口を開いた。
「そういえば、ヒズッキーが食べてるところをゆっくり見たことがなかったなーと思ってねー」
シラユリの、普段の見た目通りの愛らしく明るい声ではなく、どこか大人びて落ち着いた声での返答に、虚を衝かれたヒヅキは、少しドキリとする。
「いつもはシラユリさんが話題を提供してくださいますからね。しかし、私の食事風景なぞ、見ていて面白いものでもないでしょうに」
肩を竦めて答えるヒヅキに、シラユリはまたしても僅かに首を横に振ると、優しげな面差しでヒヅキを見上げる。
「興味深かったよー」
「興味深かった、ですか?」
「うん!興味深かったー!」
そう言ってシラユリは満面の笑みを浮かべると、いつもの口調で頷く。
そのころころと変わるシラユリの仕草に、ヒヅキはついていけずに若干気圧され、困惑に目をパチクリと瞬かせる。
ヒヅキのそんな反応が可笑しかったのか、シラユリは面白そうに笑う。
そんなシラユリを眺めつつ、しばらくは笑いが収まらなさそうだと判断したヒヅキは、笑いが収まるのを待つ間、太陽の位置と陣営の様子とを確認し、もう少ししたら出発するだろうと推察する。
それが済んでシラユリの方に目を向けると、ちょうど笑いが収まってきたところらしく、はひはひと笑い混じりに呼吸を整えていた。
「もぅ、相変わらず、ヒズッキーは、いい反応を、みせてくれる、なー」
交互に目元を指先で撫でながら、喘ぎ混じりの声を出すシラユリの様子は、一押しするとまた笑いだしそうな雰囲気を纏っていた。
「はぁ、いい反応ですか」
シラユリの言葉がいまいちピンとこないヒヅキは、考えるように首を傾げる。しかし、その行動がまた可笑しかったらしく、シラユリはもう一度腹を抱えて笑い出す。
ヒヅキは首を傾げながらも、笑うシラユリを観察していたが、そろそろ時間に余裕が無くなってきたことを思い出し、シラユリにその事を伝える。
それにシラユリは笑いながらも頷くと立ち上がり、二人は揃って陣営に向けて歩き出した。
二人が陣営に戻るまでの間も、シラユリの笑い声が止まることはなかった。