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テトラ116

 開かれた扉の方に視線を向けると、そこから誰かが出てくる。扉自体が普通の人間が出入りするぐらいの大きさなので、出てきた人物もまたそれに見合った大きさ。

「あれは……?」

「魔物ですよ」

「魔物? まぁ確かに見た目は魔物っぽいですが……」

 扉から出てきたのは、ヒヅキと同じぐらいの背丈の人物。しかし、肌は魔物によく見られるように不気味なまでに赤黒く、髪はくすんだ黒色だが古い箒のようにぼさぼさであった。

 着ている服はかなり濃い紫色で何処かの神官が着ているような服装なので、この場の神殿とも教会と言えるような部屋とよく合っていた。

 薄汚れた浮浪者とも思える見た目だが、服だけがあまりにも奇麗で浮いている。

 そんな一見人とも思える人物は、扉を閉めた後にヒヅキ達の方に目を向ける。その目は白目部分も黒目部分も全てが肌と同じで赤黒かった。ただよく見れば、黒目部分は赤みが強い。

 流石に距離があるのでヒヅキでもそこまでは分からないが、それが普通の人ではないのはよく分かった。しかし、可能性としては魔族という線もある。なにせ魔族の中には、青白い肌や黒地に金目という存在も居ると聞く、赤黒い肌や目というのが居てもおかしくはないような気がした。

 そんなヒヅキの疑問を察したのか、女性は小さく首を横に振る。

「禍々しさを抑えているので分かりにくいですが、少なくとも魔族にああいった見た目の者は居りませんよ」

「そうなんですか?」

「ええ。それと、あれは知能が残っていますが、仮にどんなに友好的な態度でも敵ですので、お忘れなく」

「無論です」

 ヒヅキの方に顔を向けて微笑みながら念を押す女性だが、その微笑みには有無を言わせぬ圧力があった。

 とはいえヒヅキも心得たもので、完全に敵地でもある遺跡に足を踏み入れた以上、最初からそこで出会う相手はなんであれ切り捨てるつもりであった。むしろ自身の弱さを自覚しているので、ヒヅキはそれぐらいの覚悟は最低条件だろうとも思っている。争いの中で情を持つなど強者の特権だろう。それも絶対的な。

 なので、仮に目の前に無垢そうな子どもが現れてもヒヅキは迷わないし、亡くした親に似た姿をした相手でも問題なく斬れるだろう。というよりも、そんな心など既にあまり残っていない。

 ヒヅキが問題ないと頷くと、女性は前を向く。

 それを合図にした訳ではないだろうが、出てきた人型の魔物はゆっくりと歩み寄りながら声を発する。

「ここにお客さんとは珍しい。今日は如何いたしましたか?」

 それは心落ち着くような大人の男性の声音だった。仮に街中の教会に務めていれば、彼は住民に人気があったかもしれない。そう思わせるぐらいには優しげな声音だった。

 しかし、二人はそれに何も感じない。ただ相手を敵としか認識していない。せっかく喋れるのであれば、何か有益な情報でも口にしてくれないだろうか、ぐらいは思っているが。

 相手はそんな二人に気づいていないのか、それとも最初から興味が無いのか、歩みを止める様子はなく、喋る事もやめないようだ。

「礼拝でしょうか? 懺悔でしょうか? ここは私しか居ませんが、出来る限りお応えしますよ」

 にこやかなと形容できるほどに穏やかな笑みを浮かべる相手だが、それ以外に仕掛けてくる様子はない。その姿は非常に友好的で、ここで緊張を解いてしまう者も居るのかもしれない。

 しかし二人はそんな事はない。それどころか、情報を喋らないならそろそろ用無しかな。と判断したようだ。

 女性がこちらで始末すると意味を込めてちらとヒヅキの方へと視線を向けると、それに気づいたヒヅキは問題ないと頷いて応える。情報といっても、ここでは特に必要そうなものも思いつかない。

 ヒヅキの頷きを確認した女性が動くと、長椅子の通路の中ほどまで近寄ってきていた相手は蒸発するように消滅した。その様子から、どうやらかなり芯まで魔物に近づいていたようだ。

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