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テトラ113

「こう、陣を描きます」

 階層を1つ下りると、そこは凄く明るい部屋であった。

 壁に魔法の光が幾つも灯り、上の階層とは違って必要なまでに闇を払っている。おかげで部屋の隅まで明るいので、光球は必要ない。

 そんな部屋で、女性はヒヅキの前を歩きながら虚空に指先で陣を描く。

 何重もの円に大小様々な三角や四角が組み合わさり、時には重ねた図形に記号か文字か分からないモノを多数書き足したその複雑な陣は、女性曰く転移魔法陣らしい。

 そんな図を、もう何度目か女性は虚空に描いてみせた。しかし、それではヒヅキには分からない。

 ヒヅキは超人的な身体能力を有しているし、モノによっては人を止めているほどに高い能力を保有してはいるが、残念というべきか、頭脳の方は人並みであった。

 一般人に比べれば優秀な方ではあるが、それでも良くて秀才止まりだ。そんなヒヅキに、虚空に描かれた複雑な陣を理解しろという方が酷であろう。簡単なものならまだしも、あまりに複雑なので、普通は指先の動きを追ったぐらいでは覚えられない。

 それでも何度も同じ陣を描いてくれるので、少しは覚えることが出来たが。しかしそれでは時間が掛かるので、やはり何処かで地面に描いてくれないだろうかと思ってしまう。

「む」

 そんな事を考えていると、奥の方から魔物の気配が近づいてきたのを感じ取る。

 上の階層では思わぬところで魔物を一掃出来たので余裕があったが、この階層からはこうやって散発的に魔物が襲撃してくるのが普通らしい。なので、ゆっくりと腰を据えて陣を教えている暇もないのだ。

(いくら敵ではないとはいえ、こんな場所に長居はしたくないからな)

 重苦しい高密度の魔力に満ちた遺跡内部は、仮に魔物が居なかったとしてもあまり長く居たいと思えない場所であった。なのでヒヅキも、わざわざこんな場所で足を止めてまでして教えてとは言わない。

 ヒヅキがどうやって転移魔法陣を覚えようかと悩んでいると、部屋の奥に見える通路から魔物が姿を現す。

 姿を現した魔物は、身長が3メートルほどある赤黒い肌の人であった。俗に言う巨人だが、手にはヒヅキの身長よりも遥かに大きなこん棒を握っている。

 そんな巨人が三体、次々と通路から入ってくる。いくら部屋の天井が高いといっても5メートルほどしかないので、3メートルほどの巨人が2メートルほどの武器を振り回すには狭いだろう。

 何処を見ているのかも分からない虚ろで真っ赤な単眼の巨人達は、顔をヒヅキ達の方へと向けると、少しふらふらとした足取りで近づいてくる。

「何か今までの魔物と違いますね」

 その不安定な印象を抱く動きに、ヒヅキは光の剣を現出させながら訝るようにそう口にした。

「そうですね……おそらくまだ自我が残っているのでしょう」

「自我が?」

 見定めるようにやや目を細めて巨人を観察した女性は、特に構えも見せずに巨人が近づいてくるのを待ち受けている。

 巨人達は身体に見合った脚の長さをしているので歩幅が大きのだが、ふらふらと左右に揺れている分、思ったよりも距離は直ぐには縮まらない。

「魔物へと堕ちるのに抗っているという感じでしょうね。身体の主導権はほとんど奪われているのでしょうが」

「なるほど」

「ある程度知性がある相手だとたまにある現象ですね。今の内に解放してあげましょう」

「そうですね」

 女性の言葉に、ヒヅキは頷く。見た限りそのおかげで三体ともに動きが鈍いので、ヒヅキでも余裕で倒せそうだ。

 最深部は女性が相手をする予定ではあるが、その他は別にどちらが戦うというのは決めていないので、たまには戦わないと身体が鈍りそうだと思ったヒヅキは、光の剣を構えたまま近くまでやってきた巨人達へと駆けだす。

 それを見送った女性は、巨人の観察を続けながら誰にも聞こえない声で「しかし、この種の巨人はあの時に滅んだはず」 と、微かに苛立ちの籠った声音で呟いた。

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