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テトラ110

 難しい表情を浮かべた女性は、小さく息を吐いた後に広間の中央付近を指差す。

「隠蔽されているのでおそらく貴方には見えないと思いますが、あの辺りに転移魔法の陣が設置されていますね」

「え?」

 女性の言葉に、ヒヅキは驚愕と好奇に満ちた目を女性が指差す先に向ける。

 しかし女性が言うように、ヒヅキの目にはそこには転移魔法の陣のようなモノは確認出来ない。

「それも向こうからこちらへの一方通行の。これは……おそらくは森の内外に入り口があるようですね」

「森の内外? 入り口が複数存在するのですか?」

「そのようです。別に1つの陣に対するのは1つの陣という決まりはありませんから。この辺りは術者の技量によりますね。それでも人でも2つから3つの陣と対応させた1つの陣を作製出来る者は大勢居たと思いますが?」

 ヒヅキの質問に、はてと首を傾げる女性。記憶を探ってみても、確かに単体の陣と複数の陣を対応させるのは一般的とは言い難かったが、それでも珍しいというほどではなかったと記憶していた。

「……それはいつの時代の話でしょうか?」

 そんな女性に、ヒヅキは内心呆れながらも理解してそう問い掛ける。

 ヒヅキの知る限りではあるが、今の時代では陣という存在自体が珍しく、それが使われている物など魔法道具ぐらいだろう。それは1つの道具に対して複数の陣は組み込めるが、陣同士で対応させるなど聞いた事もない。そもそもヒヅキにとって陣とは、即応で魔法を顕現させるための触媒でしかないのだから。

 それにそもそも、現在では転移自体が伝説の魔法となっているのだ、そんな魔法の陣の存在もまた伝説に違いない。

「そうですね、私が封印される……数100年ぐらい前でしょうか。500年は経っていないと思いますよ」

 ヒヅキの問いに、女性は思案した後にそう告げる。寿命の存在しない女性にとって、時間というのは酷く曖昧だ。記憶すべきモノはしっかりと覚えているが、そうでないモノは何となくでしか覚えていない。なので、この時間も正しいとは限らないだろう。下手すれば数100年どころか、世界自体が違うという事もあり得る。

 そもそも女性自体、幾つもの世界を越えて悠久の時を生きている者なのだ。既に1000年どころか10000年を越えて存在しているのだから、そんな時間の感覚でもおかしくはないだろう。

「そう、なのですか……?」

 しかし、女性について詳しく知らないヒヅキにそこまで察するのは難しかったようで、女性の言葉を受けて、意外と最近なのだなと、伝説と言われる存在が意外と最近まで存在していたのかと驚いているようだった。

 人間の感覚では500年もかなり昔ではあるが、その時点で存在していたという事は、それから更に時代が下っていく中で失伝したという事になる。なので、伝説などと大仰に噂される割には最近まで存在していたのかと思ってしまったのだ。

 それにヒヅキとしては、物語で出てくるような伝説として語り継がれているぐらいだから1000年以上前に消えたのではないか。ぐらいに漠然と想像していたのも影響している。

 実際はヒヅキの想像の方が正しいのだが、ここにその勘違いを理解して正せる者は存在していないので、そのまま話は続く。幸いなのは、その勘違いはそのまま放置していても何の問題もない部類の勘違いだったという事だろう。

「しかし、なるほど。という事は、外からその転移魔法陣でここに連れてこられて魔物に食われていたと。では、私達もその転移魔法陣を使えば早かったのでは?」

「ここと外にそんなモノが在るのを知りませんでしたからね。ここ同様に外の転移魔法陣にも隠蔽が施されているでしょうから、よほど注意深く観察するか、陣に近づかなければ気がつかなかったでしょう。運がよかったのか悪かったのか、陣の近くは通らなかったようですね」

 ヒヅキの疑問に、女性は苦笑するようにそう説明する。知っていたら使っていた。言外にそう答えているのは容易に理解出来た。

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