テトラ109
一瞬で部屋に立ち込めていた殺気と高濃度の魔力が霧散する。しかし、魔物はまだまだ居るので、直ぐにそれらは部屋に充満していく。
「次が来たようですね。それにしても分散してやって来るというのは襲撃を受ける側としては有難いのでしょうけれど……なんともお粗末なものです」
普通であればそれでも十分脅威だし、先程のように一瞬で殲滅するなど絶対に出来ないので、戦っている内に魔物は合流が出来ていたのだろう。女性の評価ももっともではあるが、その評価は女性だからという部分が大きい。仮にヒヅキが魔物に対していたとしたら、新手の魔物が合流するまでに殲滅するのは不可能であっただろう。
つまりは魔物側の手落ちというよりも、単純に相手が悪かったというだけの話。
次に広間に入ってきたのは四体の魔物。どれも大きな魔物で、一体通るだけでヒヅキ達の向かい側に在る大きなはずの入り口が狭く思えるほど。そんな大きな魔物が次々と広間に入ってくる。
その様子を眺めていた女性は、四体全てが広間に入ったのを確認すると、何らかの攻撃体勢を取ろうとした四体の魔物目掛けて再度剣を横に振るう。
女性が横薙ぎに振るった剣の軌跡が光となって残り、それが伸張しながら魔物めがけて飛んでいく。さながら飛ぶ斬撃とでも言えばいいのか。これで2度見たが、ヒヅキには仕組みがよく解らなかった。
凄い速度で飛んでいった斬撃は、魔物四体を捉えて仲良く横線を入れる。ただ、飛んでいった斬撃の長さが足りなかったようで、両端の魔物は半ばまで斬れただけ。
それでも十分致命傷のはずだが、両端の魔物は鼓膜が破れそうなほど叫んで傷を癒していく。その様子は、さながら時を巻き戻しているかのようで実に興味深かった。
魔物の傷が癒えていく中で、女性は二体目掛けて空間に縦に斬線を刻む。
虚空に刻まれた光る斬線は、横薙ぎの時同様に伸張しながら魔物へと飛んでいった。
それは魔物が傷を完全に治したところで、魔物達に到着する。
「……ふむ」
傷が癒えたばかりの魔物は、見事に縦に二等分されて消滅した。暗くてヒヅキには詳細は解らなかったが、背後の壁の光越しなので、斬られたのは理解出来た。斬撃の飛んでいく速度は中々のもので、明るい中でもヒヅキでは避けるのが精一杯かもしれない。
そんな事を思っている間にも、次から次へと魔物が広間に姿を現す。
しかし、その悉くを女性は斬撃を飛ばして切断していった。
魔物は死後肉体が消滅するので問題ないが、あれが広間に残ったままだと相当に邪魔であっただろう。そうして合計でどれぐらいを倒したか。ヒヅキは20を超えた辺りで数えるのを止めたが、当初女性に聞いていた数よりかは若干多かった程度だと思うので、予定通りと言えた。
最後の魔物が消滅すると、一気に魔力濃度が低下して、淀みも無くなり晴れやかな気持ちになる。
「これでこの階層の魔物は全て倒したのですか」
「ええ。これで全てですよ。まだ魔物と戦いたいのであれば、下の階へ行くか、ここの階層でしばらく時間を潰していればまた会えますよ」
「いえ、そういう意味では……」
女性の言葉を適当に流しながら、ヒヅキは光球を新しいのに替える。魔物が居なくなったというのであれば、この階層ぐらいは明るくしても問題ないだろう。
そう思いヒヅキが現出した光球は、太陽ほどの明るさは無いが、それでも数10メートル先まで明かりを届かせている。
そのおかげで確認出来た広間の様子に、ヒヅキは僅かに驚きを浮かべる。なにせそこには、何故か大量の骨が転がっていたのだから。
「人……以外の骨もありますね。ここに侵入したか迷い込んだのでしょうか?」
それにしては痕跡がなかったがと思いながら、ヒヅキは転がっている骨に目を向けたまま女性に問い掛ける。
「おそらくですが、外から連れてこられたのでしょう。そして、ここは魔物達の餌場なのかもしれませんね」
「連れてこられた? 魔物がここまで連れてきたのですか?」
女性の言葉に、ヒヅキは信じられないと驚き女性に目を向けた。
「魔物というよりも……ふむ」
そんなヒヅキを気にせず、女性は広間をゆっくりと見渡して、僅かに難しい表情を浮かべる。




