テトラ103
そんな広い通路を眺めながら、ヒヅキは道の先に目を向ける。
光が弱い為に道の先は暗闇で、どこまで続いているのか分からない。しかし、女性の話ではこの階層に数10体の魔物が居るという。であれば、そろそろこの先から魔物が出てきてもおかしくはないだろう。
(もしかして、その為の広い通路なのか?)
以前女性から聞いたこの遺跡の成り立ちを思い出し、そうであってもおかしくはないかとヒヅキは考える。
この遺跡はまるで昔は神殿であったかのような荘厳な造りをしているのだが、その実、神が封印の為に創ったに過ぎないらしい。その為、ここは最初から魔物が守護する事を前提に設計されていてもおかしくはないだろう。
魔物の中には身体が大きい存在が居る。そういうのは総じて強いが、普通の遺跡のような限られた空間ではその強さを発揮出来ないだろう。なので、そういった魔物でもしっかりと戦えるように、ここは広くなっているのだと予想出来た。
何故かと言えば、魔物の強さは身体の大きさばかりで決まるものではないし、ただの力比べでは弱くとも場所によっては抜群に強くなるという存在も居る。
例えば、壁や天井を縦横無尽に駆けられる魔物が居たとしよう。その魔物は、おそらく力よりもそういった変則的な動きで相手を翻弄して仕留める戦い方を得意とする事になるだろう。
では、そんな変則的な動きを得意とする魔物が、こんなただ広いだけで障害物も何も無い場所で戦ったらどうか。そんなのは考えるまでもなく、力を発揮出来ずにあっさりとやられると思われる。
次は狭い部屋で戦ったらどうか。一人か二人が素振り出来る程度の広さの部屋であれば、魔物は本領を発揮して三次元的な動きで相手を奔走しながら戦う事だろう。そうなると一気に厄介な相手へと変貌する。
つまりはその魔物に適した環境が必要という訳だが、この施設は守り手たるそういった魔物に適した造りになっているはずだ。
そうなると、この何も無い広い通路には何が出るのかという話になる。まぁ、考えるまでもないのだろうが。
(可能性は2つ。1つは巨大な魔物が現れる。もう1つは大量の魔物が現れる。考えられるとしたらその辺りだろう。最悪はその両方が合わさる事だが……まぁこちらは俺一人じゃないから問題ないか。奇をてらって奇襲を得意とするのを配するという可能性もあるが、ここは見晴らしがいいからな。隠れる場所がないし、在っても天井ぐらいか。それに気配を消すにも限度がある。こんな場所で女性に奇襲が出来るのだとしたら、それこそ神にも匹敵する強さになりかねない)
現状を分析してそう結論を出したヒヅキだが、今のところヒヅキの感知範囲には何も引っ掛からない。とはいえ視界がぼやけているような感覚があるので、感知範囲はかなり狭まっているだろうが。
ヒヅキは女性の方を確認するも、身構えている様子は無い。ただ、女性の場合は必要ないか、ヒヅキでは身構えているのが解らないかの可能性もある。
とりあえず引き続きいつでも光の剣を現出出来るようにはしつつ、あまり気負い過ぎないように注意する。気張り過ぎたところでいい結果は出ないだろう。
コツコツと足下から硬質な音が小さく響くなか、何処までも続いていそうな長い通路を進む。
直線ばかりでどれだけ奥に広いのだろうかとヒヅキは疑問に思いながらも、女性の背中を見失わないように注意する。
それから更に進み、やっと通路の終わりが薄っすらと見えた時、ヒヅキ達の頭上で周囲を照らしている光球がそれを照らし出した。
「あれは……魔物? しかし、あんな姿……」
照らし出されたそれを見て、ヒヅキが絞りだすような小さな声で疑問を口にする。
その視線の先、光球の明かりに照らし出されたそれは、ヒヅキの身長の倍はあろうかという人間の顔であった。




